根本の問題がわからない
よく経営者の方に相談を受けるのですが、根本の問題をわかっていない例が多いのです。これこそ「問題」です。(別に言葉遊びをしているわけではありません)
「スタッフがすぐ辞める」
だから、問題なのではありません。正しくは、スタッフがすぐ辞めてしまうのが困った、であって、問題なのは、すぐ辞めてしまうという根本的なことなのです。根本的なことを解決しない限り、すぐ辞めてしまうという事態は永遠に続きます。
「資金繰りが苦しい」
ある程度、親密な関係になって初めて経営者から口を衝いて出てくる言葉です。資金繰りを困難にさせる根本問題を解決しない限り、ある程度同じ困難は続きます。ただしこの場合、永遠ではありません。そのうちお店は潰れてしまうからです。
「お客さんが来ない」
経営者の悲鳴です。では、お客様が来なくなった根本原因はどこにあるのか、わかっているのかといったら、ほとんどが不明です。
困った事態を引き起こしてしまう根本の原因はなんなのか、これが不明だと、解決のしようがありません。すべてはその場限りの対処療法に過ぎなくなります。
すると、外部の事業者のいい餌食になります。
スタッフがすぐ辞める。だったら外部の求人サイトや業者に頼んでみよう、となります。高いお金を払って採用までこぎつけたとしても、スタッフはまた辞めてしまいます。そして外部の業者のいい“お得意さん”になっていきます。
資金繰りが苦しい。こうなると健全な金融機関には相手にされなくなっているのが現状です。だから高利の金融業者に手を出してしまいます。すると一時しのぎにはなるものの、今度は高利の金利負担を支払うのが困難になります。いよいよ支払えなくなって、また他の金融業者に手を出す。こうなると金利が雪だるま式に増えていって、実態は業者のために商売をしていることに過ぎなくなります。
早晩、破綻します。
お客さんが来ない。だから高いお金を払って外部の集客サイトに頼ります。しかし、一時的には効果があったとしても、リピート率は低下します。そのうち、新規集客ばかりにクーポンの特典をつけますから、既存客は離脱を始めます。そうなると新規客でしか回っていかなくなり、集客サイトにますますお金をつぎ込むことになります。やがては、こちらも利益は残らず赤字に転落し、やがて潰れてしまいます。
根本原因を知ることのむずかしさ
大事なのは、現在の困難な事態に至ってしまった根本原因を知ることです。
しかし、これがなかなか難しい。当事者であればあるほど、目の前の事態に追われ、客観的に判断することができなくなってしまいます。
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そこで、私の出番となります。聞いてみると、待遇面で他社と見劣りするようなところはなく、むしろ待遇は良いほうの部類に入っていて、教育も行き届いているサロンです。
経営者にヒヤリングを重ねていくと、解決すべき根本問題が見えてくるのです。こんな具合に。
新人10名が全員辞めた
経営者「スタッフがすぐ辞める。新卒採用10名したのに入社半年で全員辞めてしまいました」
私「それは困りましたね。新人のスタッフが辞めるという傾向は以前からあったのですか?」
経営者「お恥ずかしい話ですが、ここ何年もそうです。まったく今の若いもんは辛抱が足りない。注意するとすぐ辞めるんですね」
私「確かにそういう傾向はあるかもしれませんが、新人のせいにするのはやめましょう。なんの解決にもなりません。むしろ近頃の若者は打たれ弱く辛抱が足りないものだとわかったうえで接したほうがいいですよ」
経営者「それはわかっているんです。僕はわかっているんですが、うちの幹部は創業以来の20年選手が多く、自分が育った当時の接し方でついつい接してしまうので、言葉や態度が雑になってしまって、若いスタッフには攻撃的に見えるんでしょうね」
私「だったら、このまま放っておくことはできませんよ」
経営者「どうしたらいいんです?」
私「幹部を集めてミーティングを開くことです。その前にお聞きします。サロンのミッションはありますか?」
経営者「ありますよ。『すべての客様に笑顔で帰っていただきたい』というものです」
私「立派なミッションですね。ところで幹部の方の役割ですが、みなさん店長をされていますが、店長の役割はどのようなものですか?」
経営者「担当サロンの売り上げナンバーワンを維持することです」
私「わかりました。せっかくすばらしいミッションを掲げているのですが、ミッション通りの組織体制にはなっていないように思えるんですよ」
経営者「えっ、それってどういうことですか?!」(驚く)
私「『すべてのお客様に笑顔で帰っていただきたい』というミッションを実現するための最適解である組織体制ではないということです」
経営者「‥‥」(目をシロクロ)
私「幹部である店長さんたちは売り上げナンバーワンですよね」
経営者「そうですよ。売り上げに応じて給料の増減がありますから、ガ然がんばります」
私「それが問題ですね。そうなると、個人の成績ばかりが最優先となり、人を育てようとする意欲に欠けてしまいます。だってナンバーワンの地位を揺るがすような優秀なスタッフが出てきたら困るからです。これは正直な心理というものです」
経営者「だって個人ががんばるから店の業績が上がるんですよ。それのどこがいけないんですか?」(少しムキになる)
私「だから、いけないんです。個人の成績から離れて、店長さんは任されたお店全体の業績に責任を持つ。お店全体の業績に応じて貢献給を支給するような体制に改めたらどうでしょう? お店全体の業績に責任を持つようになれば、人を育てなければ業績は上がらなくなりますよね。ましてすぐ辞めてしまったらなおさらです。ですから、人を一生懸命に育てるという社風が生まれます」
経営者「そんなことをして、お店の業績が悪くなりませんかね。だって店長って、100万から上げるんですから。それがそっくりなくなってしまったら、業績はガタ落ちですよ」
私「なにもすぐそうやれというのではありません。徐々に自分の抱えているお客様を後進のスタッフに譲っていくのです。その失敗しない譲り方というのは別の機会に説明しますが、大丈夫、実証済みのやり方です。店長の役割は、個人の売り上げよりも、お店全体の売り上げに責任を持つ人のこと。そして、人を育てる育成の責任者であること。これが店長に求められるマネジメント力です。マネジメント力を身に付ける人こそが、人の上に立てる人という役割に変える必要があると思います。ですから店長とのミーティングは、期待する店長の役割をこう考えているんだが、どうだろうか?という内容になります」
経営者「役割を変えても業績に影響はないということですね」
私「影響はないどころか、育てる企業文化が定着すれば、活気あふれるお店となって人が辞めない風土が形づけられます。そんな風土であれば、人間関係に煩わされることなく、お客様に全力投球できます。そうなれば、お客様に支持されないはずがないじゃないですか。本当の意味で『笑顔で帰っていただける』組織となります。今以上に儲からないはずがありません」
経営者「なるほど」
私「そしてマネジメント力を身に付けた店長こそ経営者の右腕になります。右腕を多く育成できればできるほど、トップマネジメントチームが形成されて、社長ひとりの負担が軽減されます。会社は加速度的に成長します。支店展開がスピードアップしますよ」
経営者「わかりました。やってみます!」(と言葉に力がこもる)
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こういったふうに話は展開します。解決すべき根本問題が明確になり、同時に、解決の方法も見えてくるということです。
こうやって問題点があぶり出されたわけですが、「人が辞める」という問題を解決することで、さまざまな波及効果を生み出します。スタッフのモチベーションが上がればサロンの業績はよくなるし、資金繰りに悩まされることもなくなるというふうに。根本の部分がすべてつながっているのが多くの事例として挙げられ、すべてが一挙に解決していくというわけです。
こうなると、緊急事項にばかり忙殺されて、本来の経営者の役割である重要事項にじっくりと取りかかることができるのです。
問題を深く見ていると、それはどんどん小さくなっていきます。
観察することにあなたのエネルギーを向ければ向けるほど、問題は小さくなります。
そして、突然消えてしまいます。
そしてあなたは、大笑いするでしょう。
(バグワン・シュリ・ラジニーシ)