業界に相性のいい経営指標
今回は生産性の話をします。業界では生産性を売上高として解釈する例が多くありますが、厳密にいうと生産性と売上高はイコールではありません。そもそも生産性とは、投入量(インプット)に対する産出量(アウトプット)の割合です。ですから1人当たり100万円の生産性なんて言っていますが、投入量(材料費・総労働時間・家賃・水道光熱費など投入した資源すべて)をはじめから除いていますから、あくまでも売上高で生産性とは言えないのです。業界の健全さのために正しい用語を使うべきですね。
■□■□■
さて、テーマは「人時生産性」です。生産性を計る指標はいろいろありますが、労働集約型で成り立つ理美容業界の場合、生産性を計る指標は人時生産性が最もピタッと来ます。相性が大変よい。なぜなら、1時間当たりの稼ぎ高が明確にわかるからです。労働時間が長いという理由から若い人に敬遠される傾向が強くなった理美容業界ですが、1時間当たりの稼ぎ高が悪いので長時間労働にならざるを得ないという実態が浮き彫りになっています。これでは今後ますます若い志望者を減らしてしまいます。
世が世です。世間では生産性の上がる短時間労働の「働き方改革」が求められてる現在、若い業界志望者が敬遠する長時間労働を是正するためには、人時生産性をここでしっかりと学んでいただき、生産性を上げるための正しい取り組みをしていただきたいと願うばかりです。
この人時生産性が理解できれば、労働時間はなるべく短縮するものだ、材料費はできるだけ削減するものだ、という生産性をアップさせるための取り組むべき方向性が明確になるのです。
そして今回のブログを受けて次回では、人時生産性に直結した給与システムも解説します。業界初公開の画期的な給与システムですので楽しみにお待ちください。
人時生産性の求め方
人時生産性は次の計算式で求めます。
人時生産性=粗利益高÷総労働時間
実際に数字を当てはめてやってみましょう。売上高が300万円のサロンだったとします。粗利益は売上高-材料費(直接原価)で求められますので、このサロンでは売上高に対する材料費率が10%で30万円だったとします。粗利益高は、300万円-30万円で270万円となります。
次に総労働時間です。スタッフ5人で月間23日労働、一日の労働時間を9時間(休憩時間を除く)とします。
5人×23日×9時間=1035時間
上の算式に当てはめてみます。
270万円÷1035時間=2608円(人時生産性)
人時生産性は2608円となります。
スタッフをかかえているサロンでは全国平均で2000円程度です。全産業平均では4500くらいですから理美容業界はその半分にも満たないわけで、いかに低いかがわかります。ちなみに業界ナンバーワン水物メーカーのミルボンで9000円くらいです。社員の平均年収700万円を支給できる数字の裏付けがわかります。同じ業界でも、サロンとメーカーではこれだけの違いがあります。大手ディーラーで5000円くらいあります。メーカーもディーラーも口をそろえて「サロンの繁栄が我が社の繁栄です」なんて言っていますが、むなしく聞こえるのは私だけでしょうか。
支給できる給料の限度額もわかる
この人時生産性がわかれば、支給できる給料の限度額がわかります。労働分配率(粗利益高に対する人件費の割合)をたとえば50%としましょう。すると、上の人時生産性の値に50%を掛け算すればいいだけです。
2608円×50%=1304円
この1304円が時給で支給できる限度額となります。このサロンの場合、23日労働で一日9時間労働ですから、23日×9時間×1304円=26万9928円が支給できる月給の限度額です。ここには福利厚生費や交通費などの各種手当が含まれます。まぁ、月給27万円として年間支給額は324万円です。優秀ですね。
業界平均の人時生産性2000円だと給料はどうなるでしょうか。時給の限度額は、2000円×50%で1000円です(これでは東京都など一部地域の最低賃金を割ってしまいますね)。同じ労働時間とすれば、1000円×23日×9時間=20万7000円。これを年収に換算すれば248万4000円。発表されている業界の平均年収額270~280万円に近づきましたね。両者の年収額の差は、実質の労働時間の長さや労働分配率の高さ(経営者は無理をして体力以上の給料を支給している)の違いでしょう。
□■□■□
ここでもう一度、人時生産性を求める算式に戻ります。
人時生産性=粗利益高÷総労働時間
ですから、人時生産性をアップさせるためには
❶ 分子である「粗利益高」を増加させる
❷ 分母である「総労働時間」を削減する
という、正しい対策の方向性がわかってきます。
生産性を上げる正しいやり方
粗利益高を増やすには、売り上げを上げる、材料費を減らす、という2つの方法があります。両方同時にやるのが望ましいのですが、売り上げは簡単には上がりません(前回のブログで紹介した売り上げを2ケタアップさせる鉄板の公式どおりに実践すれば1年とたたないうちに成果は出ます)。ですから材料費の削減のためディーラー交渉はぜひやってみてください。だって、メーカーやディーラーはサロン以上に(正確にはサロンを犠牲にして)儲かっているのですから。
次に、総労働時間を減らすこと。これはマネジメントの力が大きく作用します。要するに稼働率を上げるということです。実際に接客していて売り上げに直結している時間は、一日の営業時間で半分程度です。あとの半分は、お客さんがいない稼働率ゼロの時間帯です。これでは生産性が上がるはずもありません。だからこそ、「集客」が重要なテーマになってくるのですが、この集客については重要なコアとなるところを当ブログで語ってきましたので、ぜひお読みください。また、今後も機会あるたびに語っていきたいと思います。
ただここで言えることは、スタッフ数を減らす、労働時間を減らす、という対策の方向性が見えてきます。よく土日の繁忙日に合わせてスタッフの人数が足りないといいますが、これでは平日は人数オーバーで生産性は下がってしまいます。平日へのお客様の分散化を図る、スタッフの店舗間移動を促す、という次の対策が見えてきます。
その辺の対策・対応策も、とても1回のメルマガでは書ききれません。こちらも機会を設けて順次語りたいと思いますが、これだけは言えます。中小規模の店舗が生き残るためには、自分たちの強みや秀でているところを知って、お客様にアピールして、それを必要とする相性が合うお客様と出会って、仕事を通じて、お互いが成長し合い、お役に立てること。これが生き残るための経営の原理原則です。大型サロンのように、絶対多数を相手にするやり方ではありません。
■□■□■
人時生産性がいかに重要か、わかっていただけたと思います。自店(社)の人時生産性はいったいいくらなのか計算してみてください。平均値と比べても致し方のないことで、注力すべきは現在の人時生産性の値を求めて、その値をいかに上げるかということです。極論すれば、人時生産性を上げれば上げるほど、労働時間は短縮し、支給できる給料も増えるということです。理美容業界版働き方改革とは、こういうことを言うのです。
次回は、人時生産性に直結した給与システムです。合理的・客観的で、スタッフの誰からも不満が出ることはありません。業績に貢献すればするほど給料は増え、またアシスタントの貢献もしっかりと反映されますから、アシスタントも含めて全従業員のモチベーションが上がるという画期的な給与システムです。ご期待ください。
マネジメントとは
物事を正しく行うことであり、
リーダーシップとは
正しいことを行うことである。
(ドラッカー)