給与システムの決定版は存在しない
前回のメルマガで予告した通り、今回は「人時生産性に直結した給与システム」をお伝えします。
どんなサロンでも“これだ、という給与システムがない”のが現状でしょう。理美容業界に限らず、あらゆる業種業態においても事情は同じです。完璧な給与システムがあれば、あれほど給与に関連した書籍が本棚をにぎわすことはありません。
ですから、これから申し上げる給与システムはあらゆる産業においても通用するものと自信をもってお伝えしたいのです(エヘン!)。
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とはいうものの、各社各サロンにおいて十分ダウンロード可能な給与システムではあるのですが、導入する場合は従業員への論理的な説明が必要です。理解が得られなければ現場の混乱を来してしまいます。ですから、読者の方に理解が得られるまでなるべく丁寧に説明しようと思いますので、分量を多めにして連載でお届けします。
また業界で広く価値観として定着してしまった評価の基準とも極端に違ったシステムとなっていますので、抵抗のある内容と思われるかもしれません。なぜ現行の給与制度がダメなのか、その辺も切り込んで説明しますので、辛抱してお付き合いいただければ幸いです。まぁ、それだけ画期的な給与システムであると自信を持っているのですが。
背景には「時間」がある
内容を説明する前にまず、これから紹介する給与システムには、重要な考え方の背景があります。その背景をよく理解していただかなければ、仏作って魂入れずで、導入には失敗します。念のため。
では、いきます。考え方の背景には「時間」があるということです。時間は、「人」「物」「金」「情報」という4大経営資源に新たに加わった第5の経営資源です。それだけ時間価値は飛躍的に高まっているということです。
「人時生産性」もすべて「時間」がキーワードでしたね。1時間あたりにスタッフがいくら稼ぎだしたか。1時間で1万円稼ぐサロンがあったとしたら、1時間で2000円稼いだサロンよりも生産性が5倍となります。生産性が5倍なら、単純な話、給料は5倍になります。スタッフは給料が5倍もらえるサロンで働きたいと思いますよね。生産性の決定的な差は、就職先選びにも決定的に作用します。
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ですから、給料の原資も時間当たりの生産性で決まってしまうということです。“俺のカットは1万円だ”と単価自慢をする人がいますが、そのカット技術を支持する顧客数が少なく、稼働していない時間が半分であれば、生産性は半分以下です。単価5000円の人がフル稼働しているのと生産性は同じです。だからもらえる給料も同じ。
またこういうケースも見受けられます。流行のカット技術をとりいれて、8000円~1万円取るというのですが、その施術時間は1時間半かかります。批判の矢面に立たされる10分1000円カットの店よりも生産性は低いのです。だからもらえる給料は1000円カットの店よりも少ない。
このように、生産性は時間当たりの稼ぎ高によって決められます。時間はおろそかにできないのです。経営資源の中でも、ありがたいことに時間は万国共通、1人ひとり均等に与えられている資源です。ある人には30時間、ある人には15時間といった時間の割り当ての差はありません。万人が1日は24時間で決まっています。そして1日過ぎれば24時間はもう戻ってきません。人や物や金のように持てる人と持てない人との資源に差はありません。ここが時間の公平性であり、すごいところです。同時に、どんどん失われていく貴重な資源であるとも言えます。
ですから、時間を戦略的に有効活用することで業績に大きな違いが出てくるのは当然のことなのです。
以上、これからご紹介する給与システムは、時間当たりいくら稼いだのか、すべてはこの考え方がベースとなります。これはベテランのスタッフも、中間も、アシスタントもすべて共通する考え方であるという前提があります。
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こう言うと必ずといっていいほど反論が出ます。アシスタントは売上に貢献していない、アシスタントの補助業務とわれわれスタイリストの仕事とを一緒にしてもらったら困ると。
とんでもない、アシスタントもたとえ補助業務であろうともしっかりと売り上げに貢献しているからです。例えばカラー剤の調合、塗布、シャンプー、理容で言えばシェービングなど売り上げに貢献しています。これを貢献していないとみなして、スタイリスト1人当たり100万円売り上げるなんて自慢すること自体が間違っています。これではアシスタントのやる気が失せてしまいます。アシスタントの早期離脱が絶えないのは、アシスタントの貢献をしっかり数値化して認めてあげていない現行の給料のあり方に問題があるのではありませんか? スタイリストもアシスタントも、すべては公平に時間当たりに換算されて貢献しているという、合理的・客観的な給与システムでなければなりません。
ここまで大丈夫でしょうか? いままでの給料のあり方とまったく異なる考え方です。反発される方はこれ以上読まなくて結構です。新しい給与システムの内容が知りたいという方だけ、次の連載をお読みください。次回から、「人時生産性に直結した給与システム」の具体的な内容に入っていきます。
生産性は労働者の責任ではなく、経営者の責任だ。
(ドラッカー)