まず前回までの復習
今回は「人時生産性に直結した給与システム」その応用編です。これで給与システムの連載は最後になります。
その前に重要なことの復習です。この給与システムの基本的な考え方です。
給与の原資は「売上」であり、売上に対する人件費率を40%以下に保つシステムであり、なおかつ、スタッフに支給できる給料額の総額は増えるシステムのことでもあります。
がんばって売上貢献した人にはその貢献度によって支給できる給料の額が増えます。やる気を促すシステムであると同時に、アシスタントも含めたスタッフ、経営者双方が「トク」を共有できる内容となっています。
そしてその支給基準は、曖昧性を排して論理的であり、客観性をベースにして、しかも公平性まで完全カバーしています。
■□■□■
1個のパイを想像してみてください。そのパイを貢献度によって公平に切り分けることができると同時に、売上というパイを大きくすることができることでもあるのです。これがサロン(企業)の正常な発展の姿です。
前回の総合調髪の各工程別の施術時間と工程別の料金を再び取り上げます。
❶ カット 20分 2400円
❷ シャンプー 7分 840円
❸ シェービング 7分 840円
❹ ブロー 6分 720円
総合調髪 40分 4800円(お店によって施術の工程時間は異なる)
標準時間とポイント
各工程別の施術時間は、熟練技術者の施術時間がベースになるとお話ししましたね。これを「標準時間」とします。そして、10分1200円、1分120円の料金設定にしていますから、これをわかりやすくポイント換算します。
上の作業工程では、カット・20分・2400円のスタイリストは20ポイント獲得したことになります。シャンプー7分840円のアシスタントは7ポイント獲得したことになりますね。
あるお店の技術売上合計額は300万円だったとします。
各スタッフの獲得したポイント合計は2万5000ポイントだったとします。
300万円÷2万5000ポイント=120円/ポイント(1分当たりの売上)
あるスタッフの売上目標が60万円の場合、
60万円÷売上/ポイント
=60万円÷120円/分=5000ポイント➡実績ポイント
サロン全体での人件費率は40%ですから、
120円×40%=48円/ポイント➡1人当たりの人件費
つまり、48円が1分当たり歩合給の上限金額となります。
ここまでは理解していただけましたか? 以上が給与システムの基本設計です。多くのサロンは標準時間で計算すると平均4時間程度です。1日の営業時間のうち半分以上は売上をもたらさない遊んでいる時間です。驚くべきことです。それで人が足りないというのです。時間当たりの生産性ということにもっと注意を向ければ、半分のスタッフはいらないかもしれません。
さて、これを応用するとどうなるでしょか?
基本設計の応用
売上実績60万円のスタッフの給与額はこうなります。
60万円(5000ポイント)×40%=24万円(支給金額)
そのスタッフががんばって70万円の売上実績を上げたとします。70万円は5833ポイントです。超過ポイントは、5833-5000=833ポイント。この超過ポイントに対して、1分当たりの人件費48円ではなく、例えば40円とするのです。するとどうなるか?
833ポイント×40円=3万3320円
24万円+3万3320円=27万3320円➡支給給与額
27万3320円が支給金額であり人件費です。個人売上実績70万円のスタッフが27万3320円の給与を支給するわけで、27万3320円÷70万円=39%
つまり、人件費率は固定の40%より下がるのです。1分当たりの人件費48円を40円としましたが、これが38円でも35円でもいいのです。それだけ人件費率は下がります。40%より下がったからといってスタッフは誰も文句を言いません。なぜなら手取り額が増えてがんばったご褒美という意味合いが強くなるからです。誤解を恐れずに言えば、ボーナスポイントなどという名称がいいですね。
これが、がんばって売上貢献すればするほど給料は増え、しかも相対的に人件費率は下がるという仕組みなのです。スタッフもトク、お店もトクな給与システムです。
□■□■□
【週休2日制での貢献給】
今、働き方改革が言われています。長時間労働を排して短時間で効率よく売上貢献することが求められます。そこで週休2日制で月間の勤務日数が22日のサロンがあったとします。あるスタッフの目標ポイントが5000ポイントだったとします。
5000ポイント÷22日=227ポイント/日
勤務時間が1日8時間とすれば、
227ポイント÷8時間=28分
つまり1時間のうち標準時間で28分の仕事をすればよいことになります。これはシャンプー2人とシェービング2人の作業にあたります。アシスタントでも
5000ポイント×120ポイント=60万円
60万円の売上貢献ができることを意味します。
【中途採用での給与額の決め方】
中途採用で給料が30万円を希望するスタッフを採用したとします。
30万円÷40%=75万円
30万円支給するには75万円の売上を上げてもらわなければなりません。ポイント換算(75万円÷120ポイント)すれば6250ポイントです。同じように、
6250ポイント÷22日=284ポイント/日
1日8時間勤務ですから
284ポイント÷8時間=36ポイント
これは1時間の間にカット2人(厳密には1.8人)をこなして初めて到達可能となります。これを1日に置き換えれば、積極的にシャンプーもこなしたとしてカット8人、ブロー8人、シャンプー11人に該当します。このようにアシスタントの人員が十分でない場合、積極的にアシスタント業務に協力するという風土が生まれまれスタッフは活性化します。
もし希望する給与額が手にできない、つまりそれに見合う売上貢献していないとなったら、最初の数カ月間は希望給与を支給するとしても、このような給与支給の理由をはっきり説明して支給できる給与額を数カ月の平均貢献度をベースにして引き下げるのです。合理的で公平な給与システムに反論しようがありません。
【パートの支給額】
時給1000円のパートの場合は、同じく人件費率を40%として、売上目標はこうなります。
1000円÷40%=2500円/時間
となり、ポイント/時間は、
2500円÷120円=21ポイント/時間
となります。これはシャンプー3人分にあたります。月間通じてこの目標を超えたら人件費率40%以下の貢献給を支給できます。時間給のパートスタッフが活性化します。
ひとりの天才が考案
以上が「人時生産性に直結した給与システム」の基本設計です。時間価値が飛躍的に高まっています。働き方改革も待ったが許されません。許されるとしても、そういうサロンは希望就職先からはじき出され、人が集まらないサロンとなってやがて衰退していきます。時間短縮していかに効率よく稼げるかが問われているわけで、着目すべきなのは人時生産性、そして人時生産性と直結した給与システムなのです。
この標準時間ポイント制の給与システムは私の独創ではありません。いまは亡き(株)テクノメディアコンプレックスの横山道明社長の独創です。それを基に、人時生産性という業界に大変フィットした生産性の評価メジャーと結びつけただけです。横山社長は、業界に君臨した天才のお一人だと思っています。しかし残念ながら、その独創の意味を業界で十分理解せずに、せっかくの貴重な財産が埋もれようとしています。その代りに耳障りのいい無能なコンサルタントばかりがはびこっています。勝手に横山社長の弟子を自認している私が、埋もれてはなるまいぞ、この財産、とばかりに故・横山氏の遺志を引き継ごうと思っています。<完>
給料を払っているのは雇用主ではない。
雇用主はお金を取り扱っているだけだ。
給料を払っているのは顧客である。
時間だけは神様が平等に与えてくださった。
これをいかに有効に使うかはその人の才覚であって、
うまく利用した人がこの世の中の成功者なんだ。
(本田宗一郎)
時間こそは、最もユニークで乏しい資源。(ドラッカー)
人間は現在がとても価値のあることを知らない。
ただなんとなく未来のより良い日を願望し、
いたずらに過去へと連れ立って嬌態を演じている。(ゲーテ)
※表題の写真は私の大好きなジャコメッティの彫刻作品です。