ああ勘違い!販促だけ独り歩きしてしまう現実
とても重要なことなので、深くご理解いただくために2回にわたってお伝えします。
単なる販促(プロモーション活動)をマーケティングと称している人が多くいますが、単純な間違いです。マーケティングの「4P」ってありますが、「製品」Product、「価格」Price、「流通」Place、「販促」Promotionのそれぞれ頭文字を取って4P。このように4つの要素を組み合わせてマーケティングの戦略を構築すること。これをマーケティングミックスといいます。(4Pに代わり得る顧客視点の4Cも参考までに図示しました)
このように、販促はマーケティングの欠かすことのできない重要な要素ではありますが、あくまでもマーケティングの一要素に過ぎないということなのです。
この辺を理解しないと、マーケティングが不在なプロモーション活動となって、望む集客は実現できず、コストばかりが肥大化し経営は迷走していきます。表題に掲げた「間違いだらけの集客法」となります。
世に集客コンサルタントは多くいますが、成果がなかなか出ないのはそのせいです。ホットペッパービューティー(HPB:以下HPB)が業界を席巻しているのもそのせいです。
マーケティングを理解し、しっかりとしたマーケティング戦略を打ち立て、その戦略にのっとって初めてプロモーション活動は威力を発揮するのです。ですから経営者の教育には正当なマーケティング教育が緊急にして必須のテーマであると考えます。
欠かせない「STP戦略」
マーケティングの原理原則があります。ドラッカーの言うように「マーケティングの理想は、販売を不要にすること」であるとすれば、早くその“理想”にたどり着きたいと思います。では、そもそもマーケティングとはなんぞや? です。マーケティングの神様と言われるコトラーは、あらゆる経営資源を統括するものだ、そしてマーケティングの中心概念は「顧客」であると位置づけています。そしてコトラーはマーケティングを「市場や顧客のニーズに応えて利益を上げること」と単純明快に定義しています。
私はわかりやすく端的に、マーケティングとは、「そろそろ髪を切りたいというニーズ(必要性)を、あらゆるライバル店をすりぬけて、ぜひあなたのお店でやってほしいというウォンツ(欲求)に変える一連の行動」ととらえています。すべからく中心には「顧客」が存在します。
では、マーケティングの中心概念である顧客は誰か? ということです。ここにマーケティングの「STP戦略」が登場します。Sはセグメンテーション(Segmentation)のSです。Tはターゲティング(Targeting)のT、Pはポジショニング(Positioning)のPで、それぞれの項目ごとに分析して戦略まで高めます。要するに、自店が誰に対してどのような価値を提供するかを明確にするための戦略です。
わかりやすく順を追って説明します。まず「T」を定めます。顧客のどの層をターゲットとするか、です。これは上位5%の顧客で十分です。上位5%の顧客をリストアップして顧客の属性を調べます(回転率で勝負する、よほどの安売り店でない限り必ず上位客は存在します)。すると男女の性別はもちろんのこと、居住している場所、年代、家族構成、およその年収レベル、もっといくと人生の価値観や生活信条などがわかります。同時に、上位5%の顧客には共通する一定の傾向がそこに見て取れます。例えば、高級住宅地に住んでいて、年齢が50~60歳代の女性、世帯年収は1000万円以上で、美や健康に対する指向性が強いといったふうに。これこそがサロンがターゲットとする顧客層です。なぜなら、上位5%の位置にランクアップする可能性の高い、いわば予備軍であるからです。つまり、あなたのお店にとってぜひとも来ていただきたいお客様であるのです。
[1] 顧客の声を聞く
次に「S」です。ではターゲットとする顧客層のどのようなニーズに対応すればよいか、です。市場(ニーズ)の切り分けです。
これは次の「P」とリンクします。つまりターゲットとする顧客層のニーズに向けて強みとして提供できるものは何か? を決定することだからです。世の中のニーズと自店の強みを知るにはSWOT分析が有効ですが、使い勝手が悪く、よほどのアナリスティックなスキルがないと正確な分析ができません。それよりも、確実に、しかも簡単に知る方法があります。それは「顧客の声を聞く」ことです。
その方法は、別のプログでも紹介しましたが、重要なので繰り返します。1つはアンケートです。上位5%に行うたった1つの質問、つまり「長年ご愛顧をいただいていますが、どんなところがお気に入りで通ってくださっているのですか?」を聞くことです。もちろん、失礼のないように、こういう添える言葉が必要です。「ぜひトップランクのお客様にお聞きして今後のサービスの改善に役立てたいのです」。これでお客様はプライドをくすぐられ、もっとお店がよくなるのであれば、と積極的に答えてくださいます。
別の方法もあります。それは食事会を催すことです。しっかりとご案内書は作成します。文言は上記アンケートと同じで結構です。お酒も入って和やかな雰囲気の中で正直に答えてくださいます。ただし、司会役のスキル次第で成果は左右されますので注意が必要です。
また別の方法として、フォーカスグループインタビューもあります。食事付きではないのでそのぶんコストはかかりませんが、成果は司会進行役のスキルに左右されます。知り合いのオーナーは一定の期間を開けて、食事会とフォーカスグループインタビューを交互に開催して大きな成果を上げています。その成果は、すでに店舗数は200を超えていることで実証されています。瞬時にして和気あいあいの雰囲気を作り、ホンネを引き出すオーナーのワザは秀逸です。
これが異業種ですと、顧客の声を集めるのに膨大なコストがかかります。しかし美容室の場合、声を集めやすくコストはさほどかからず、おまけに顧客情報は豊富にしかもプライバシー情報に及ぶほど深く持っているという、とんでもない特権があります。特権があるのに利用しようとするサロンが少ないという現状はとても残念です。
そうやって集めたお客様の声をそのまま大きめのフセンに書き出しボードに貼っていきます。その際に、お客様の声をカテゴリー別に分類(KJ法)します。例えば「接客」「技術」「立地」「環境」「料金」‥‥といったように。そのカテゴリーのなかで一番多くの声を貼っていったのが必然的に大きな面積を占めます。それがお店にとっての最大の支持ポイント、つまりお店にとってのUSPのタネになるわけです。
[2] USPはこうやって作成する
次に、一番面積の大きなカテゴリーのなかから、似たような支持ポイントの声を拾っていきます。例えば「いつも私のことを気にかけてくれて、頃合いを見て新しいヘアスタイルを提案してくれる」なんていうコメントがあったとします。さらにこんなコメントがあるかもしれません、「私の価値観をよく理解してくれていて、その都度、ライフステージが引き立つ提案をしてくれる」だとか‥。こういう声を発見するだけでスタッフのモチベーションは飛躍的に上がります。なぜなら日頃のサロンワークに対する賞賛の言葉のオンパレードであるからです。
これらは思わずハッとさせられる言葉です(ハッとする言葉をいかに引き出せるかは、聞き方次第です。これは独特の話の引き出し方をして核心に迫るという取材テクニックの1つですが、ここではその詳細は控えます)。これらのハッとする言葉を組み合わせてコピーライティングします。例えば、こんなふうに――。
「いくつになっても美しさをあきらめない。ライフステージが引き立つ、あなたの人生応援団=プロ美容師」
こんな感じです。これがマーケティングで言う「USP」です。圧倒的なウリ、卓越性のことです。これをキャッチコピーにしてアピールするわけです。じつはこのコピー、高度なテクニックを使っているのですが、それはともかく、「いくつになっても」で50~60歳代のミドル層を対象にしているのがわかりますし、「ライフステージが引き立つ」で、ある程度の生活レベルが豊かな人で、美に対する投資を惜しまない、という含みをコピーに持たせています。
そうなのです。お聞きした対象の人はミドル層、それも自分の人生の価値を高めるために美に対する投資を惜しまない層。けっして料金の値引きやクーポンで来店しない層。これが自店にぜひ来ていただきたいお客様(潜在客)、つまりこれから上位5%になっていただけるお客様の予備軍というわけです。
これらの情報を共有するために、人生のゴールまでシナリオとして描く「ペルソナ」の作成は役に立ちます。(ペルソナは別の機会で説明します)
そしてもう一度「S」に戻ります。セグメンテーションです。ミドル層で美に対する欲求の強い方に向けて、自店の強みである「接客」のレベルをブラッシュアップすることです。ブラッシュアップとは強みを深堀して接客レベルではどこにも負けないという境地に達するまで突き進むことです。これは「提案力」のことです。せめて上位5%のお客様には、今度こういう提案をしてみよう、といった事前でのスタッフミーティングが欠かせません。人生の価値観や信条など理解したうえで提案をするという習慣づけをします。こういうことの繰り返しが提案力を高めますし、繰り返しますが、接客力のどこにも負けないレベルでの深堀となります。ですからカウンセリングの重要性は何度強調しても強調しすぎることはないのです。
次回はみなさんの最大関心事である販促、すなわちプロモーションを解説します。と同時に、マーケティングの最前線は今どうなっているのか? もお話ししたいと思います。この最前線の情報はビジネスの再構築を迫られるまでのインパクトのある内容です。お楽しみに。
美しい女性を口説こうと思ったとき、ライバルの男がバラの花を10本送ったら、君は15本贈るかい? そう思った時点で君の負けだ。ライバルが何をしようと関係ない。その女性が本当に望んでいるのかを見極めることが重要なんだ。(スティーブ・ジョブズ)