弱者が勝つ戦い方とは?
【3】メニューの多様化
●孫子の兵法
まず、最古にして最高の兵法書と称される『孫子の兵法』を取り上げます。その成立の裏には、古代中国の長い戦乱の歴史と、生き残りをかけた「不敗」の真理が説かれています。その「真理」は、もちろん現在でも通用します。なぜなら「真理」だからです。
その『孫子の兵法』にこんな一文があります。
「我は槫(あつ)まりて一(いつ)と為(な)り、敵は分れて十と為らば、是(こ)れ十を以(も)ってその一を攻むるなり」
こういう意味です。
「こちらは集まって一つになり、敵は分れて十カ所に分散するのであれば、こちらの十人で敵の一人を攻めることになる。」
ビジネスに置き換えてみましょう。
「競合があまり力を入れておらず、自社が得意で、しかも顧客ニーズが大きい分野に特化する」ことができれば、その分野で勝てる可能性は大きくなるということです。
仮に敵の店が20人、こちらの店が5人で運営しているとすれば、敵はこちらの4倍の勢力であり、店舗規模も、コスト面も優位に働き、用意しているメニューも豊富で圧倒され、勝ち目はほとんどありません。
しかし、敵がAからJまで10分野を扱っていて、そのうちのDは20人中2人で細々とやっているとする。自社がもしこのDの分野に強ければ、こちらの5人ですべてを集中させることでDという局所では勝てる可能性は大きいというわけです。
●ランチェスターの戦略
『孫子の兵法』から離れて、次は「ランチェスターの戦略」に移ります。『孫子の兵法』の剣や弓矢で戦う古典的な戦いから、近代的な戦闘で勝つための確率論から生まれたのが「ランチェスターの戦略」です。
ランチェスターには「小が大に勝つ3原則」があります。その3原則の1つに、【集中の原則】があります。つまり「局所優勢となるように兵力を集中し、各個撃破する」というものです。
●ポーターの競争の戦略
もうひとつ、例を挙げましょう。MBAの講義で最も多く読まれ競争論の聖書とされているのが、マイケル・ポーターの『競争の戦略』です。このなかで弱者が取るべき戦略は「差別化」と「集中」だと定義しています。
「差別化」とは、ライバル店が提供するサービス・商品の価値に対して、自社のサービス・商品の認知上の価値を増加させる戦略です。ここでいう認知上とは、自社がいくら優れたサービスだと言っても、それを顧客が、なるほど優れたサービスだと認めなければなりません。これを認知上といいます。その認知上の価値を増加させるのです。
「集中」とは、ある特定のサービス分野に経営資源を集中投下することです。上で述べた「差別化」となるサービス分野に経営資源を集中投下することです。「戦略とは捨てることである」とポーター教授が言っているように、あれもこれもとメニューを増やすことは戦略ではありません。野球で言えば、巨大戦力を誇った読売ジャイアンツが、あれもほしい、これもほしいと他のチームの4番バッターばかりを集めたことが連想されますね。これは巨人軍という資本力がある巨大チームでこそ取れる戦略です。(結果は、4番バーターばかりでチームとしてまとまりがなく失敗したというオチがつきます。そして弱小戦力である野村監督のヤクルトに弱者の戦略で負けた:笑)
勝てる分野に「一点集中」
以上、古今東西で戦略論のバイブルと言われる3つの戦略を取り上げました。重要なのは【弱者の戦略】です。小が大に勝つにはどうするのか。3つの戦略論で共通する戦い方が述べられています。
それは、【一点集中】です。
規模の大きい、資本力もあるサロンに対して、規模の劣る中小サロンが勝つためには、大規模サロンが見落としている分野やメニューを見つけ出し、その分野ははたして顧客のニーズがあるのかどうか顧客アンケートなどで見極めて、よし、いける!となったら、大規模サロンでもメニュー化している分野は思い切って切り捨てて、その特定の分野に経営資源を集中投下することです。
例を挙げましょう。ご存知「QBハウス」は、それまでの理容室の売り物スタイルであった、刈って剃って洗ってセットするという総合調髪メニューから、カットだけを取り出して、その他のメニューは捨てる。残ったカットの技術を10分という短時間でこなすことに経営資源を集中投下させました。
もちろんそこには顧客のニーズがあると読み取ったうえです。「シャンプー、セット、髭剃りは自分でもできる。唯一できないのがカットで、わたしならカットだけに特化した店を作る」といったのは、わが師・大前研一氏が『企業参謀』で述べたことですが、それを実行に移した業態が「QBハウス」なのです。(大前先生はQBハウスのビジネスモデルを私から聞くと、喜んで自分のテレビ番組Sky PerfecTVにQBハウスの創業者と私を呼んでくださいました)その結果は今日の隆盛に見られる通りです。
また、わずか数年で全国100店舗のチェーンを築き上げた「Dears」。多様なメニューを捨てて“髪質改善”という一点に経営資源を集中投下させた。もちろん顧客のニーズがそこにあると確信したうえで業態を生み出した成果です。
「クルマの種類は売りませんが、クルマのワックスでは負けません」とは創業者の弁です。
このブログを読んでくださっているあなたは間違いなく大規模サロンの経営者ではないと思います(間違っていたらゴメンナサイ)。だったら、大規模サロンと同じような戦い方は即刻やめるべきです。同じようなフルサービスメニュー、同じような集客方法をしていたって勝てるはずがありません。
現実に“どこのお店に行っても変わり映えしない”というお客様の声は真剣に受け止めてください。代わり映えしないのであれば、料金が安く、特典が豊富で、選べるメニューが迷うほどある、そう、大型店に勝てるはずがありませんから。
大型店が苦手にしている、あるいは、ないがしろにしていて、それでも一定数のニーズがある技術分野、メニューはなんですか? その分野はあなたのお店では得意分野ですか? 得意分野ではあるけれど、徹底できない、なぜならディーラーさんが次から次へと流行りの商材を持ってきて、それをいちいちこなすだけで手いっぱい。気づいたら多様化したメニューの満艦飾。何をかいわんやです。もったいない!
捨てる勇気と選ぶ決断
もう一度言います。
戦略とは捨てること。多くの選択肢の中から勇気をもって捨てていくこと。捨て去った中から、どうしても捨てられずに残った数種類(もちろん一点であればなおよい)のメニュー。それがはたしてどのくらいのニーズがあるのか、はたしてやっていけるのか。やっていけるとなったら、他店が追いつけないレベルまで徹底的に深堀すること。(これを流通用語でラインロビングといいます。)深堀した分野をアピールするための最適な集客手段を選ぶこと。
そして、例に挙げた「QBハウス」や「Dears」のように、そこにある顧客のニーズ次第で、特定分野に一点集中すれば、巨大チェーン店を作り上げることも可能なのです。
何を捨てて何を残すか。
これが経営者であるあなたの一番の仕事です。
そうしないと、今後10年、勝ち残ってはいけません、生き残れません。他店と同じ土俵で戦うことをレッドオーシャンと言います。血みどろの戦いを強いられ、利益は残らず深く傷ついて、そのうちに市場から撤退の憂き目を見ます。断言してもいいです。
「知力を振り絞れば、弱者であっても強者に勝てる。
凡人であっても天才に対抗できる。」
(野村克也)
「大切なのは、
自分の持っているものを活かすこと。
そう考えられるようになると、
可能性が広がっていく。」
(イチロー)