欲求の大きな移り変わり
顧客の欲求には次のような大きな変遷があります。いわばメガトレンド級の変化です。
[1] 名詞的欲求
[2] 動詞的欲求
[3] 形容詞的欲求
それぞれの欲求をざっと説明します。
[1] 名詞的欲求とは、カットだったらカット、パーマだったらパーマ、カラーだったらカラーというようにメニュー、つまり「名詞」を欲求するものです。
かつてありましたね、パーマ全盛時代など、全女性はこぞってパーマというメニューを求めました。パーマさえかかっていれば満足という時代があったのです。美容室がパーマやさんと呼ばれ一番儲かった古き良き時代のことです。
[2] 動詞的欲求とは、上記の名詞的欲求を手段として、〇〇という目的を遂げたいという欲求のことです。
わかりやすく言うと、「パーマをかけて毛先にウェーブを出したい」「カットをして軽さを出したい」という、あくまでもパーマやカットは毛先のウェーブや軽さといった目的(動詞)をかなえるための手段です。
[3] 形容詞的欲求とは、ヴィヴィッドでありたい、大人かわいいと思われたい、セクシーを印象づけたい、キャリアを演出したい、といった欲求のことです。
消費は高度化・多様化・個性化を推し進め、自分らしくありたいという欲求に変化したのです。
じつはこの「形容詞的欲求」こそが今のニーズです。
形容詞的欲求とのミスマッチ
ここで問題が発生します。
現在のメニュー、そしてメニューごとの料金表示はまったくお客様にフィットしていないってことです。
つまり、お客様の欲求は形容詞的欲求であるのにもかかわらず、幾時代も前に通用した名詞的欲求でしか応えていない、その受け入れ態勢こそ問題だということになります。
現実のお客様の心のシーンを覗くと、こういう曲線を描きます。
「仕事がバリバリできるキャリアっぽいヘアスタイルにしたい、でも、そんな抽象的なこと言ったって、美容室はいつもメニューでしか載っていないし、今日はカットですか、カラーですか、といった要望でしか応えてくれない。希望を述べて、それを実現するための必要メニューとしてパーマやカラーがあるっていうなら、この際料金は度外視する。でも、美容師さんにそんな希望を述べたところでうまく伝わらないし、ああだこうだと時間ばかりたってしまって申し訳ない。そして結局、いつものカットにしてちょうだい‥‥」
こういうお客様の本当に求めている欲求を取り逃がしているのですね。
まず集客の段階で名詞的欲求しか打ち出していないのですから当然のことです。せいぜいそのミスマッチを解消するのがスタイルの写真ですが、たくさんあるようでいて本当にマッチする写真は少ない。
とくに顧客層の半分を占めるミドル世代の写真はほとんどなく、あったとしても多様な形容詞的欲求を満たすようなバリエーションは皆無です。若い人の写真ばかり示されても興ざめするばかりでしょう。
まして当ブログで何度も言っているように、現代は消費シーンが成熟した果ての「自己実現欲求」の時代です。この高度な欲求には応えられていない。
だからなのです、お客様の欲求とお客様を受け入れる窓口となるメニュー表示と接客の言葉では、決定的なミスマッチが生じてしまっていますから、料金やクーポンでどっちがお得かを競うしかなくなるのです。
ミスマッチの解消法
ミスマッチの解消方法はこうです。
「あなたのなりたいスタイルをなんでもご相談ください。プロである私たちが、あなたの“なりたい”に誠実に対応いたします。お客様のご要望をしっかりとおうかがいするために、カウンセリングのお時間を十分確保してお待ちします。」
こういうことを全面的に打ち出すのです。
カウンセリングを前面に打ち出し、形容詞的欲求をかなえるための手段である技術メニューは背後に押しやってしまう。というか、料金の高い安いは美容室選びの意思決定には重要ではないことを示すのです。希望を実現するための手段としてカットやカラーやトリートメントといったメニューがあるのです。プロである美容師がメニュー選択のイニシアティブを取るべきです。
メニューで売るな!
料金で売るな!
コンセプトで売れ!
これがプロとしての価値でなくてなんでしょう。
「あなたの最も不幸な顧客が、
あなたの最大の教師です。」
(ビル・ゲイツ)
「他社を見るな。お客の変化だけを見ろ。」
(鈴木敏文)