多くの実体験から見えてきたもの
私は今まで延べ5万人の経営者に会い4000店舗のサロンを訪問してきました。
経営者の栄枯盛衰を目の当たりにし、同時にサロンの浮沈も目撃してきました。
そんな経験から、ダメ経営者が陥る典型的な思考・行動パターンといえるものが把握できたように思います。
では、ダメ経営者の典型的な思考・行動パターンとは? あくまでも個人的に把握したパターンですので、異論はあるかと思いますが、それを承知で次の6つのパターンがあると、あえて十分な自信をもってお伝えできます。
[1] 技術者であって経営者ではない
[2] 本を読まない
[3]数字がわからない
[4]心の底ではスタッフの成長を望まない
[5]他者依存であって人の意見を聞かない
[6]海外有名ブランド依存
もちろん、ギャンブルや異性に狂い、サロンを顧みないなんて人は問題外ですけどね。その問題外の人も何人も見てきましたが(笑)
なかでも一番ひどかったのは‥‥、
いや、やめましょう。思い出すだけでも私の頭の中が汚れますので。
上記[1]から[6]まで説明しましょう。1回では収まり切れないので前編と後半の2回にわたってお送りしますね。
[1] 技術者であって経営者ではない
これは言い換えれば「技術至上主義」と言えるもので、技術があれば客は来ると思い込んでいる経営者です。
まぁ、ご本人がそう信じこんでいるんですからその通りとしましょう。しかしそれだけ優れた技術をお持ちなら、その優れた技術を、適切な媒体で、適切な方法で、適切なタイミングでアピールして集客しなければ、その優れた技術を支持するお客様は集まりません。
これができていません。
あるとき、技術のカリスマという人に出会いました。カット技術は2万円という高価格を掲げていました。しかし、売上は客数×客単価です。その人のサロンは単価が高くても客数が絶対的に少ない。これではビジネスになりません。
さすがにこれではマズイと思ったのでしょう、巨大クーポンサイトに広告を掲載したのです。どんどん価格を下げていって最終的にはなんと実質的に70%OFFの値下げ。どこにでもあるポピュラープライス。たしかに新規客は集まりましたが、これに怒りを発したのが既存客です。数は少ないとはいえ2万円のカット技術を支持していた上位客です。それがこぞって離脱を始めました。
信念が揺らいだ経営者にスタッフも不信感を持ち、1人欠け2人欠け‥‥“そして誰もいなくなった”。そう、とうとうカリスマ1人になってしまいました。経営者は今度はアトリエのようなサロンを目指したいと業界誌で語っていましたが、値段を元の価格帯に戻したところが、2万円の技術を支持した上位客はすでになく、サロンは閑古鳥が鳴く有り様。
とうとうカリスマは店をたたんで、業界の表舞台からも去りました。
[2] 本を読まない
経営者として致命的です。本を読むということは、わずか1冊2000円弱の投資で、何年、何十年もかけてつかんだ先人たちの貴重で珠玉の人生や経営の本筋に触れることができるのです。これほどすぐれた投資効率はありません。
本を読めば読むほど読解力が増し語彙(ボキャブラリー)が豊かになります。
語彙が豊かになれば経営者としての決断を迫られる際に、選択肢が増えるということです。だから失敗する確率は少ない。
語彙が豊かになれば、事業の構想力が鍛えられます。イノベーションを起こさなければ生産性の向上は望めないとされる理美容業の現実があります。新しい事業の構想力の勝負でサロンの浮沈が決まってしまう、そんな時代を生きているのです。
本を読まなければ事業の構想は、せいぜいすでにあるビジネスモデルの後追いです。あるいは思い付きレベル。豊かな未来はありません。
ある上場企業の創業社長に「経営関連の本は読まれますか?」と質問したところ、「本はまったく読みません」との答えに、この会社大丈夫かなと疑問を持ちました。
その後、疑問は的中し、売上は毎年下落で赤字決算。赤字解消するために不採算店の閉鎖を繰り返すも、「継続企業の前提に関する重要事象等」として「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在している」とIR情報に記さなければならない状態にあります。つまり、はたして上場企業としてやっていけるのかと【?】マークがついてしまったのです。それも、ここ数年連続で。
イノベーションを起こさない限り、この会社は上場廃止どころか、持たないでしょう。
[3] 数字がわからない
経営者として最低限の数字の読み方は把握しておかなければなりません。ところが数字は見るのも嫌だという人がいます。数字アレルギーですね。しかし数字がわからなければ経営の正しい判断はできません。
数字の読み方の詳細には触れませんが、まず損益計算書で重要なのは「営業利益」です。この1年間の事業の成績をそのまま表せるのが営業利益で経営者の通信簿と言えるものです。経営者が売上原価、粗利益、販管費をコントロールできているかは営業利益を見れば一発でわかります。もちろん営業利益がマイナスを何年も続けますと会社はつぶれます。
営業利益の増減はどうなっているのか、減っているとすれば、売上高の増減はどうか、原価が肥大しているのか、販管費に問題がないか、すぐにチェックして改善策を講じられます。
ちなみに高収益と言われる企業は粗利益に対して20%以上の営業利益を出している会社となります。
次に貸借対照表です。これで会社の安定性を見ます。その場合、注目すべきは「自己資本比率」です。自己資本比率は次の計算式で簡単に求められます。
自己資本比率=純資産合計÷資産合計
返す必要のない純資産の比率を表したもので、会社の中長期的な安全性を示す指標です。
会社は借金ではつぶれません。借金を返済できなくなってつぶれるのです。
この自己資本比率の増減はどうなっているのか。一般的には10%以上あれば安全と言われています。自己資本比率がマイナスであれば債務超過となって安全性は危険度大。銀行はお金を貸してくれません。
それではこんな例を取り上げます。
資金繰りに困り、倒産の危機に瀕している会社があったとします。この場合、大事なのは「手元流動性」です。急場の資金繰りができるかどうかの目安となります。
たとえ債務超過になっても、支払いに必要なお金があればつぶれません。
そこで、すぐに使えるお金がどれだけあるかを示す指標である「手元流動性」を計算します。
次の計算式で求められます。
手元流動性=(現預金+有価証券などすぐに現金化できる資産+すぐに調達できる資金)÷月商
月商、つまり月間売上高の2か月分あれば安全です。
とはいっても、現預金や有価証券などすぐに現金化できる資産は貸借対照表に明記されていますから、それはいいとして、問題なのは「すぐに調達できる資金」です。その資金を確保する方法として、まず経営者が動くべきは銀行へのリスケ(返済条件の緩和)、取引先への支払い猶予の交渉など、です。
返済や支払い猶予に賛同いただければ、こういう方法でこの時期から資金繰りが改善するという利益計画表を持参して誠意をもって交渉することです。
とても嫌な交渉事です。でも嫌だと言っていては会社がつぶれてしまいます。勇気をもって臨んでほしいと思います。
同時に、当ブログで発信した「絶対つぶしてなるものか!目からウロコの資金繰り法」をぜひ実行してください。
さらに重要な経営数字として
「人時生産性」
「ROI」
「ROAS」
は理解していただきたいと思います。
「人時生産性」に関しては「覚えておきたい『人時生産性』という指標」
「ROI」に関しては「美容室経営5つのNG その【1】過大な設備投資」
「ROAS」に関しては「美容室経営5つのNG その【2】広告宣伝費の肥大化」
を併せてお読みください。
次回は後編として
[4] 心の底ではスタッフの成長を望まない
[5]他者依存であって人の意見を聞かない
[6] 海外有名ブランド依存
を発信します。
未来は、いくつもの名前を持っている。
弱き者には「不可能」という名。
卑怯者には「わからない」という名。
そして勇者と哲人には「理想」という名である。