根が深いパターン
「ダメ経営者が陥る典型的な思考と行動パターン」その【後編】です。
【前編】では[1]「技術者であって経営者ではない」、[2]「本を読まない」、[3]「数字がわからない」をお伝えしましたが、後編では[4]「心の底ではスタッフの成長を望まない」、[5]「他者依存であって人の意見を聞かない」、[6]「海外有名ブランド依存」をお送りします。
前回の3つのパターンは努力すれば改善できることで、気づいた人の勝ちといった一面があります。
ところが今回の3つのパターンは、なかなか自分では気づかない、気づいたとしても改善できないという、大変根が深いパターンです。根が深いだけに改善できないまま、致命傷となって跳ね返ってくる確率が高いのです。
それでは始めます。
[4] 心の底ではスタッフの成長を望まない
これは心理学でいう深層心理です。口ではスタッフの成長を心から望んでいると表明します。本人はその通り、心からそう願っていると思い込んでさえいますから始末におえません。
思い出されるのはあるエピソードがあります。
人材教育で定評があるとされる経営者がいました。その経営者が自宅を新築し、その完成披露に招かれたことがあります。
地方都市にあるその自宅は2億円もする豪邸でした。屋敷内を案内されていると総ヒノキ造りで100年持つ堅牢さであるとか、造園はその道の権威に設営してもらった、この床柱はどこそこの銘木で云々‥‥といった自慢話が延々と続きます。聞いているこちらは出るものは溜息ばかりです。
さて翌日。市内に複数店舗ある大型規模の美容室を経営者の案内で訪れたのですが、そこで目を疑う光景に出くわしたのです。
スタッフはおざなりに挨拶するように顔を私たちに向けるのですが、「敵視」といっていいほどの攻撃的な視線を向けて寄こすのですね。
次のお店も、次のお店もそうでした。
スタッフの心中を察するに、「カッコつけてんじゃねぇよ、先生よぉ。床柱の自慢? ふざけんじゃねぇ、自慢の柱はよ、俺たちの血と涙の犠牲の上に成り立ってるんじゃねぇか」ってね、そういう意味の視線と読み取れました。(言葉づかいが乱暴でごめんなさい。でもこのほうがスタッフの心情に近いと思います)
業界誌であれだけ人材教育の実績を吹聴していたのに、なんだ、ガセだったのかと落胆しました。その後その経営者はどうなったのか‥‥。
それにはその後に起こった印象的な事件があったのですが、それは措くとして、倒産してしまったのです。その後の詳しいことはわかりませんが、自慢の豪邸も取り上げられてしまったのでしょうね。経営者の行方も知りません。
この経営者が特殊な例ではありません。経営相談に乗っていても数多く経営者に見受けられる傾向です。
スタッフの成長を願っている、しかしその深層心理では、スタッフの成長を恐れている。
そうなのです、スタッフの成長を恐れているのです。二言目には“スタッフは育っていない”と嘆きますが、心の奥底ではスタッフが育ってくれたら困るのです。
なぜなら、自分の地位を脅かされるのではないかと疑念にさらされているからです。よく言いますね、「寝首をかかれる」って。とにかく心の奥底では、スタッフを信じていない。
こういう経営者の営む事業は、経営者の器以上に大きくはなりません。重要にして絶対必要なトップ・マネジメント・チームは組織化できません。組織化できても、イエスマンばかりのチームになってしまって機能しません。
[5] 他者依存であって人の意見を聞かない
一見矛盾しているようですが、不思議なことに矛盾がその人の中では両立しているのです。
他者依存とは、よくある傾向として人の意見に左右されやすいのですね。あっちのいい話、こっちの儲かりそうな話にすぐ飛びつきます。だから大抵は成果を上げられません。
すると失敗の矛先を、いい話をしたその人に向けるのです。それも直接ではなく間接的に。そして回り回って矛先はスタッフに向かいます。“俺がこんなにしゃかりきになってやっているのはお前たちががんばって成果を上げないからだ”と。
責任を転嫁する典型的なパターンですね。
同時に、過去の成功にしばられてもいます。過去の考え方、やり方にこだわっているのです。その考え方ややり方がもはや通用しないと頭ではわかっているのですが、そのこだわりを手放すのが怖い。
経営の本筋の問題です。本筋だけにシフト・チェンジするのが怖いのです。本筋にかかわらない部分では、そんな恐怖をまぎらわせようと、あっちのいい話、こっちの儲かりそうな話には飛びつくのでしょうね。
やがて時代の急激な変化に対応できず、お店はつぶれていきます。「ところで、あの人は今どうしてる?」こんな例は何十、何百と見てきました。
[6] 海外有名ブランド依存
あるシーンが思い浮かびます。
空港の税関。テーブルの上にさまざまな大きさや形のバッグを次々に取り出していくのです。それも海外有名ブランド品ばかり。まるでドラえもんのポケットです。その税関の窓口にはいつの間にか長蛇の列ができてしまいました。
あるディーラーの主催で海外旅行に招待された美容室経営者のひとりです。いや、正確には2人です。ご夫婦でドラえもんの四次元ポケット状態なのです。
同じ招待された他の経営者が私に耳打ちしました。「人に迷惑かけてでもモノ自慢がしたいんですよ」
こういう例はあり過ぎるほどあります。
よくFacebookでも見かけますが、時価数千万もする高級外車を乗り回したり、高級寿司店での写真をアップしたり‥‥ね。自分を成功者としてアピールしたいのでしょう。
でも、自分自身ではなく、モノでアピールするのってどうでしょうか。そういった情報を見ているスタッフはどう思いますか? そんな高級外車に乗るくらいならもっと給料を増やしてほしい。これがホンネです。そういう経営者の会社に限ってスタッフの離職率が異常に高いのです。
そういう経営者に共通する深層心理は、自分に自信がないということです。とてつもないコンプレックスをいだいています。コンプレックスの解消が高級海外ブランドのモノなのです。
正反対の経営者を知っています。スタッフの離職率は極端に少なく、毎年増収増益を重ね、店舗数も順調に伸ばしている経営者がいます。
でも、乗っている車は中古のポンコツ。さすがにスタッフが見かねて意見しました。「社長1人の体ではありません。ぼくらスタッフたちの人生を背負っています。お願いですから頑丈な車に乗ってください」と。
そこで経営者は国産の頑丈なステーションワゴンに買い換えました。
一方では、スタッフの恨みを買う高級外車。もう一方は、スタッフが激押しして買い換えた国産車。これだけでその後の両者の発展は天と地ほどに開きが出てきます。
「人の生くるは直(なお)し。これを罔(し)いて生くるは、幸いにして免るるなり。」(論語)
‥‥人が生きているのはまっすぐだからだ。それをゆがめて生きているのは、まぐれで助かっているだけだ。