従来のビジネスモデルは終わった
人口減に過当競争です。それも新規出店数が1万2000~3000店舗もあって、廃業するサロンが1万店超という多産多死の様相。
さらに、人材難に社会保険強制加入と残業規制から働き方改革。極めつけは消費税の10%増税!!!
こういう厳しい経営環境に置かれていますから、赤字サロンが8割もあるというのもうなずけます。利益を出すのはすでに至難の業というレベルにあって、あちこちのサロンから悲鳴が上がっています。
先日もある大手サロンの経営者から相談を受けました。コストばかりがかさんで、これ以上やっても儲からない、どうしたらいいんだと。
美容業界で初の株式の上場を果たし、美容業のリーディングカンパニーと言われた(株)田谷でさえ、赤字決算続きで、不採算店をスクラップして急場をしのいでいますが、上場し続けることはすでに困難な状態に置かれています。
こんな現状を見るにつけ、つくづく美容業界の従来のビジネスモデルは終わったなと思います。
ビジネスモデルとは「持続可能な事業の仕組み」のことを言います。持続可能とは利益を出し続けることですから、利益を出し続けることが困難になった、イコール、ビジネスモデルの破綻(はたん)を意味します。
では、どうすればいいんだ、と切羽詰まった声が聞こえてきますが、結論は1つしかありません。
新たなビジネスモデルを作り出すこと。
これ以外にありません。
新たなビジネスモデルを構築することをせずに、対処療法をいくら繰り返したところで、結果が出たとしてもそれは一瞬、限定的です。
だから、過去の成功話はやめましょう。現在では通用しないのですから。ゼロベースで考える。これが大事です。
異業種にはない 美容室の絶対的「強み」とは?
ゼロベースで考える際に重要な視点があります。
現在の美容業にとって、異業種にはない絶対的な強みは何か? と考えることです。異業種にはない、なんて甘いかもしれません。異業種が逆立ちしたってかなわないほどの、喉から手が出るほどの「強み」です。
え? そんなのあるの?
‥‥じつは、あるんです!
やってみてください。あれでもない、これでもないとどんどん消去法で考えてみてください。
どうですか? 残ったものとは?
私は、消して、消して、最後に残った次の4点がそれに当てはまる“圧倒的な”「強み」であると確信します。
その4点とは――
[1] 全国いたるところにある美容室、その数25万店
[2] どんな年代層でも客層として確保することができる
[3] 長時間、一対一で対応する
[4] 顧客情報を、それもプライバシーにまで及ぶ個人情報を収集・管理できる
いかがでしょうか。この4つが最大の強みです、異業種が逆立ちしたってかなわないくらいの。
その理由を説明する前に、強調しておきたいのは、これらの圧倒的な強みを最大限の武器とすること。そうすれば、新しいビジネスモデルを作り上げることができるということです。
ワクワクしませんか?
では、1つずつ説明していきますね。
[1] 全国いたるところにある美容室、その数25万店舗
[2] どんな年代層でも客層として確保することができる
[1][2]を一緒にやります。
「あれ、いつもSuzu Masaさんは25万店舗という数自体マユツバと言ってませんでしたっけ?」そんな疑問はこの際、封印します。話が先へ進みませんので。
反対に、「25万店もあるから過当競争なんだ、業界最大の弱みであり、なぜそれを強みなんて言うんだ」と非難ごうごうの声が聞こえてきそうです。
25万店もあるから過当競争。確かにその通りです。でも、そんな杓子定規な見方をしていては新しい革新的な発想はできません。むしろ、25万店舗もあるからチャンスなんだととらえる、そんな「逆転の発想」をすることが新しいビジネスモデルを考える際に絶対と言っていいほどの必要な視点なのです。
「逆転の発想」。これはキーワードです。
かつてQBハウスの創業者に質問をしたことがあります。「こんなに多くの理容室があるのに勝ち目はあるのか?」と。創業者は答えました、「だからチャンスなんですよ。いくら店舗数があったって組合主導の仲良しサークルで競争をしていませんから。そんなのライバルでもなんでもない」と。
これが「逆転の発想」というものです。みんなと同じことはやらない。
だから、勝てる!
そこで、こういう発想に立つ。
美容業界の最大組織は組合です。組合は不人気で、組合員の高齢化が進み、脱退する人が続出しています。美容店舗数の半分にも満たないどころか、3分の1程度の組合員の数です。仮に8万店舗の組合員だとしましょう。
8万店舗の組合員が一斉に顧客の10人でいいです、その10人もできるだけ年代層がばらけたほうがいいのですが、その10人からアンケートを取るのです。お聞きすることはただ1つ。「あなたが思うベストヘアドレッサーはだれですか?」
たった、これだけ。
10人の声を拾えば、8万店舗×10人で80万人のアンケートがそろいます。80万人という数の力はすごいインパクトですよ。もちろん、がんばって20人の声を集めてもいいです。そうなると160万人の声が集まります。「数は力」なのです。
さらに普段、美容室を多く利用している“美にうるさい女性客が選んだ”という「ハク」(付加価値)がつくのです。
そして、これを、例えば武道館でにぎにぎしく発表会をするとしましょう。すると、どういう事態が発生するか?
マスコミがこぞって取材に駆けつけるんですよ。
「20代の美にうるさい女性が選んだベストヘアドレッサーは○○さんです!」「40代の美にうるさい女性が選んだ、栄えあるベストヘアドレッサーは○○さんです!」ってね、アナウンサーが大きな声で読み上げます。
選ばれた本人が来ますよ。
間違いない! なぜって、とても名誉なことだから。
そして、最後の仕上げ。「各年代層を通して最も票を集めた方は○○さんです!」と発表が待っています。イベントのクライマックスですね。ファンファーレが鳴り響き、当人は晴れがましくステージに登場します。
どうです? マスコミに大きく取り上げられて美容業の宣伝効果は広告料に直すと数十億円になります。美容業のイメージアップが一瞬でできますよね。これを毎年の恒例行事にしていくのです。組合の求心力は高まりますよね。支出は武道館(たとえば、ですけど)の賃借料のみ。
ヘタに広告代理店を使って多くのお金を投資しても、なんのイメージアップにもつながらなかった過去のやり方はまったく無意味です。
組合の理事長選挙をするときには、こういうダイナミックで実現可能な事業を候補者が発表する、その企画の良し悪しで選挙をすること。公明正大でいいじゃありませんか。組合の緊急事態です、票集めの裏工作なんてやっている場合じゃないですよ!
私が立候補しようかな‥‥(笑)もちろん冗談です。
以上は、大きな組織という視点で述べてみましたが、個々のサロンにとっても考え方は同じです。
「同じ発想はしない」「逆転の発想をする」
ということです。
たとえば、思い切って営業時間を変えてみる。事実、深夜帯に営業しているサロンがあります。最適立地は都心のベッドタウン。
勤務時間が終わって家路を急ぐサラリーマンやOL。ところが家のある最寄り駅に着いて美容室へ行こうにも、残業終了後ではお店はクローズしています。仕方なしに土曜、日曜に行く羽目になりますが、予約は取りにくく待たされる。
こんな不満の声はとても多いのですね。口では「お客様が第一」と言いながら、こんなお客様の不便を長い間顧みなかった、ほったらかしにしておいた。それでお客様が第一とは、いかがなもの? いや、暗い話題はやめましょう!
とにかく、残業をして遅くなってしまった時間でも、疲れた体を迎えてくれるサロンがある。これは救いですね。
その名も「ナイトサロン」。たった1人の営業で300万円はゆうに売り上げています。なぜなら、そこに「ニーズ」があるからです。
もちろん早朝サロンがあってもいい。エグゼクティブのニューヨーカーは早朝にサロンへ行って身だしなみを整え、身を引き締めて戦場へと向かっていきます。通勤電車で寝ている日本のサラリーマンとは雲泥の差です。だからアメリカに日本は経済力で太刀打ちできないのでしょうね。
早朝サロンがとても人気だと現地の知り合いが報告してくれました。
もちろん日本にもあります。例外なく業績がいいようですね。
次回の後編は残りの
[3] 長時間、一対一で対応する
[4] 顧客情報を、それもプライバシーにまで及ぶ個人情報を収集・管理できる
をやります。もう少し突っ込んでお話しますね。ご期待ください。
人の真似だけは会社がつぶれてもやらない。
(樋口廣太郎)