政府は2018年の1月から「モデル就業規則」を改訂し、働き方改革の一環として「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」の規定を削除。さらに、副業・兼業に関する規定を新設したことで、「副業元年」と呼ばれる新たな時代の幕開けとなったことはご存知の通りです。
今、大企業を中心に、黒字であってもミドル層の実質的な大量首切りが行われていて、定年制と年功序列賃金はすでに崩壊しています。
いつ何時、自分がリストラの対象ともなりかねず、1つの会社に頼ることなく副業でもやってスキルを磨き、自立しなければ生きていけない。そんな時代になりつつありますね。
美容業界でも、すでに副業は始まっていて、実態はわかりませんが残念なことに風俗での副業ということもまことしやかに言われています。
副業とは言わず、美容師を辞めて風俗へ転職してしまったケースは数知れずでしょう。
働くスタッフのことではありません。本ブログの性格からして経営者向けに発信していますので、美容室の「副業」に話を振ります。
美容室の副業ブーム
スタッフのケースと同じように、美容室の本業では稼げず、サイドビジネス(副業)に手を染めるケースがここのところ増えてきました。
また一方では、儲かっている今のうちから次の成長ステージを見つけようと新規ビジネスに着手するケースもあります。
次の図を見てください。
これはプロダクト・ライフ・サイクルといって商品やサービスの「導入期」から「成長期」「成熟期」そして「衰退期」までの曲線を描いたもので、人間の一生のように、商品もサービスも同じ曲線を描くといった、マーケティングの定説です。
あまりにも早く成長のカーブを描いた事業は衰退するのも早い。
反対に、なかなか成長のカーブを描けない事業の寿命は長い、といったように応用が可能な定説となっています。
古い人ならご存知でしょう、社会現象になるほど爆発的な人気を誇った「たまごっち」がありました。あまりにも早く成長期を迎えたために衰退期を一気に迎え、製造メーカーのバンダイは大量在庫を処分せざるを得ず、大幅な赤字に陥ってしまったという事例などその好例です。
業界にもありますね、急激な店舗展開をして成功に酔っている経営者がいるようですが、衰退もそれだけ早まるのです。
定説を知っていれば、こういうことが見えてきます。多くの人はわれ先にとその勢いに乗り遅れまいとしますが、時すでに遅しで、衰退の坂道を一気に転げ落ちることになりかねません。
「人の行く裏に道あり花の山」
これは投資の格言ですが、この場合にも当てはまります。
どんな画期的な商品・サービスが市場投入されても、人の命に寿命があるように、やがて市場から消えてなくなってしまう。
となると、1つの事業だけをやっていては、その時期は早いか遅いかの違いはあっても、消えていく運命にあるのですね。
だから図の赤線のように、衰退期を迎える前に、新しい画期的なコンセプトによる次の新規ビジネスに着手して新たな成長のシーズを見つけ出さなければならないわけです。
というわけで、そんな背景から美容室が新規事業に着手することはおおおいに賛成です。
副業の6つの条件とは?
でも、“ただし”という条件が付きます。その条件は以下の通りです。
【1】ストックビジネスであること
【2】初期投資額は少額であること
【3】在庫を持つ必要がないこと
【4】粗利益が大きいこと
【5】リピーター・ビジネスであること
【6】市場への理解が深くワクワクできること
丁寧にやると長くなりますので別の機会に譲るとして、1つずつ、きわめておおまかに説明します。
【1】ストックビジネスであること
これは当たり前といっては当たり前のことです。美容室は典型的なフロービジネスです。お客様の意思次第で来店したりしなかったり。その日の売上はお客様の気分次第、天気次第。これでは売上は安定しません。
つい最近のことですが、フライパン美容師なるものが話題になりましたが、フロービジネスの典型である飲食業をフロービジネスの典型である美容室がやってどうするの?ってことです。ますます経営は安定しませんし、まして飲食業は多産多死で美容業以上に生き残りが厳しいビジネスです。まさにお笑いです。
そうではなく、ストックビジネスを手掛けること。
ストックビジネスの典型は、たとえばガス・水道・電気などの公共料金、携帯の料金、家賃、コピー機のカートリッジ交換、リース契約、定期購読の新聞や雑誌など、人の労働力を伴わなくても安定的にお金を稼げるビジネスのことです。
ですから、美容室という不安定なビジネスではなく安定するストックビジネスへの着手、これをお勧めしたいのですね。
美容室で代表的なストックビジネスといえば、FCの本部です。安定的に加盟店からロイヤリティ収入が入ってきます。材料費のマージンも見込めますね。
特許権などその人が独占的に占有している技術・権利を、それを必要とする人に特許権使用料を徴収して貸与するっていうことも立派なストックビジネスです。
あるいはストックビジネスの事業者とのアライアンス(互いの得意分野を持ち寄って協業すること)という方法もお勧めです。
【2】初期投資は少額であること
新しいビジネスは成功するかどうかわかりません。むしろ成功しない確率のほうが高いでしょう。
なのにもかかわらず、会社の命運をかけるほどの金額を投資してしまったら、本業である美容室自体の存続も危ぶまれます。まして投資金額が借金であったら、事業がうまくいかなければ返済の原資は既存事業の利益を食いつぶすことでしかありません。やがて既存事業も危なくなります。よく相談を受けるんですね、「社運を賭けた事業である」と。思わず引いてしまいます。
こんな無謀な試みがここのところ大変多いように見受けられます。
現在は将来の見通しがまったく立たない「VUCA」の時代です。10やって1つでも当たれば儲けもの。そのくらいの気持ちでチャレンジすることです。9つは失敗するのですから、1つひとつの事業に大金は投じられるはずがないですよね。
【3】在庫を持つ必要がないこと
在庫を持つこと自体が大きなリスクです。決算上は在庫は資産になりますが、売れなければリスクであることに変わりはありません。不良在庫となってやがて首を絞める元凶になります。
【4】粗利益が大きいこと
これも言うまでもありませんね。美容室の原価を見ればおわかりの通りです。粗利益とは別名「付加価値」のことですから、高ければ高いほど有利に働きます。
【5】リピーター・ビジネスであること
1人のお客様に何度も買ってもらえる、これがリピーター・ビジネスです。水道光熱費がその代表例ですが、1回の購入代金はたとえ少額であっても何度も繰り返し購入してくれる。これぞリピーター・ビジネスの醍醐味というものです。
【6】市場への理解が深くワクワクできること
新しいビジネスにチャレンジするといっても、その方面の市場を知らなければ最初から負け戦です。どんな市場でもいいのですが、その市場をよく知ること。どんな競合がいて、ニーズがどれくらい見込めて、参入は容易か難しいか、既存の美容事業との親和性がどうか、など重要なことについてまともな判断をすることが欠かせません。
ここもよく引っかかってしまうんですね。とくに新規事業分野の説明会なんかに行くと、さも豊かな市場であるのかのように喧伝され、そのまま信じて参入したところがまったく市場そのものが競合が多くてニーズそのものを食い尽くした後、ぺんぺん草も生えていないなんてことがよくありますから。
そしてワクワクすること。これも大事です。金儲けができそうだとワクワクするのではなく、会社で定めたミッションにかなうビジネスであり、既存のお客様も喜んでくれるし、スタッフのモチベーションも上がる、そんなワクワク感のことです。
以上、6つのポイントを述べましたが、これらのポイントと真逆のビジネスに参入しようとするケースがあまりにも多くて、老婆心ながら警鐘乱打しておきます。
基本と原則に反する者は例外なく破綻する。