自社・自店の存在意義
事業の「目的」ほど大事なことはないですね。
「目的」は「ミッション」と言い換えてももちろん結構です。
「われわれの事業は何か。なんであるべきか」を定め、社員と目的の共有をし、日々の行動に落とし込んでいく。
もちろんそこには、一企業として、一組織として、何をもって社会に貢献していくかといったソーシャルな視点がなくてはなりません。つまり、社会の中での「自社(自店)の存在意義」です。
ところが、せっかく定めた目的(あるいはミッション)がいつの間にか「1年で何店舗出店しよう」とか「売上げ〇〇円を目指そう」とかという数値目標に変わっていってしまいます。
よく言われる、「目的」と「手段」のはき違えですね。
サロンの台所事情は苦しいから、そうなってしまうのもよく理解できますけど‥‥。
そうやって目標ばかりが先行して、いつの間にか目的がどこかへ行ってしまう。
あわてて探して、なるほどそうかと感じ入ったとしても、すでに目標は独り歩きをしてしまっていて、いまさら目的を社員の前で語っても軌道修正ができない。
そんなことって往々にしてあります。
おまけにいつのまにか売上貢献で社員の成績まで決まってしまっていますから、数値目標の達成に社員は追われ、最終的には疲弊していきます。
そして軌道修正できないまま、それどころか、度重なる社員の離職と資金繰りに追われ、いつか組織は崩壊していきます。
『ビジョナリー・カンパニー』という本を読んだことがありますか? ビジネス書として大変優れた内容の本ですが、それによると、時代を超えて発展し続ける企業には共通して崇高な基本理念=事業目的があった、と証明しています。
3人のレンガ職人の話
よく言われるレンガ職人の話です。
旅人が1人目のレンガを積んでいる職人に一体何をしているか尋ねました。
●1人目の職人は「見ればわかるだろう。レンガを積んでいるのさ。毎日毎日、雨の日も風の日も、やってられないよ」と答えました。
2人目の職人に尋ねました。
●2人目は「ここで大きな壁を作っているんだ。これで家族を養っているから、大変なんて言ってられないよ」と答えます。
3人目の職人に尋ねました。
●3人目は「歴史に残る偉大な大聖堂を作っているんだ。ここで多くの人が祝福を受け、悲しみを癒すんだ。素晴らしいだろ!」と瞳をキラキラさせて答えました。
3人の職人の意識は、
1番目の職人➡やらされている感
2番目の職人➡生活の手段
3人目の職人➡世の中へ貢献したい(ミッション・目的)
どの職人がモチベーション高く仕事に励んでいるか、おわかりですね。
このように、3番目の職人にこのような意識を植え付けるのが経営者の仕事です。そう、「目的」です。目的に賛同した人が集まり、事業は順調に拡大していきます。
よく経営者の悩みとして挙がるのは、「うちのスタッフはモチベーションが低い」という嘆き節です。
きっと「やらされてる感」や「生活の手段」ととらえて仕事をしている社員が多いのでしょうね。
会社が社員に与えられる幸せ
会社が社員に与えられる幸せは2つあります。
まず1つは「働く幸せ」、2つ目が「経済的な幸せ」です。
まず一番目に、社員に「働く幸せ」を感じてもらうことです。
それには「仕事の意味」を教えなければなりません。
仕事の意味とは、会社の「目的」=「ミッション」を教えることが先決です。「目的」とは繰り返しますが、「自社・自店の存在意義」のことです。競合店がたくさんひしめくなかで、自店はどんな理由によって存在しているのか。それを明確にした言葉です。
その「目的」を共有することがまず第一。
そしてその目的を達成するために、それぞれが受け持つ、ひとつとして欠かすことができない重要な仕事であるという意識付けをすることです。
トンデモな元祖カリスマ美容師
例を挙げましょう。
かつてカリスマ美容師の先駆けとして須賀勇介という人がいました。今の若い人は知らないと思いますが、日本でよりもアメリカで名を馳せた美容師さんです。
日本では黒柳徹子さんの「タマネギヘア」の考案者ですが、ニューヨークでは多数のセレブやハリウッド女優を担当。圧倒的人気で、当時としてはあり得ないことでしたが、ニューヨークに「スガサロン」までオープンしました。
なかでもその名声を決定づけたのが「ハミル・カット」でした。1976年冬季オリンピックのフィギアスケート金メダリスト、ドロシー・ハミルのヘアスタイル「ハミル・カット」を考案。ジャンプしたときに炎のように舞い上がる髪が、着地したときにピタリと元の髪型に戻ることが驚きをもって話題となりました。
日本に帰ってきても、美容師の範ちゅうを超えて「文化人」として尊重され、当時、一流の文化人といわれる人たちとともに文化・オピニオン誌を飾る常連メンバーでした。そんなスケールの美容師は須賀さんの後にも先にもいません。
そんな「伝説の美容師」と言われた須賀さんでしたが、ニューヨークではなかなかカットデビューを認められなかったそうです。
そこで須賀さんは、いつまでも環境の不幸を嘆いていても始まらない、今自分ができることとして、それならシャンプーがある。シャンプーでお客様を虜にしてやろうと考えたのです。
日本式の丁寧なシャンプー技術に須賀さんのオリジナルな工夫を加えてシャンプーを施したところ、一気に人気が爆発、前代未聞のシャンプーだけで予約がいっぱいになったというエピソードがあります。
晴れてカットデビューの際には当然のことですが予約客でいっぱいになったことは言うまでもありませんね。
まさにレンガ職人の3人目のケースです。シャンプーという仕事の意味、つまり「シャンプーでお客様に貢献したい」という目的=ミッションがあったからです。
このように、たとえアシスタントの仕事でも仕事に対する意味を教えること。もちろん目的と一気通貫した意味を、です。そこに少しのブレがあってはいけません。
これが社員に「働く幸せ」を感じてもらうというエッセンスです。
経済的幸せは後からやって来る
次に第2番目、「経済的な幸せ」です。
「人」「物」「金」は3大経営資源です。物とお金は固定数でなかなか変えられません。資本力や店舗数の差はなかなか縮めることが困難です。
ところが「人」。これを人数で考えれば固定数となって社員数の多いところと少ないところでは、決定的な差となって、なかなかその溝は埋められません。
しかし唯一変えられるのが社員の、モチベーションです。モチベーションこそ変数なのです。モチベーションを上げること、それはつまるところ仕事の意味を腹の底からわかっていて、いきいきと働く姿勢が、活気を生み、お客様の支持を集めるのです。
ですから仕事の成果は大きくもなれば小さくもなる、その変数であるモチベーションを鼓舞できて、高いレベルで維持できる組織こそ、必然的に儲かるサロンとなるのであり、結果として社員の経済的豊かさを保障する原資となるのです。
この順番を間違えてはいけません。
まず第1番目に「働く幸せ」、次に「経済的幸せ」です。
この順番を間違えるから、社員欲しさに、初任給、労働時間、有給休暇の付与といった有利な「条件」ばかりを提示するようになるのです。
「条件」で採用した社員は「条件」で簡単に辞めます。だってそうですよね、他社・他店から現在よりも有利な「条件」を提示されれば、「条件」につられて簡単に離職してしまいますから。
あなたが働く「目的」と「意味」、これを真摯に社員に提示してください。
し続けてください。
粘り強く、何度でも。
最強組織をつくるための原理原則です。
小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道。
(イチロー)
「なぜ努力するのか」という理由がはっきりすれば、自然とモチベーションは上がります。
(長島一由)