耳を疑う言葉が‥
「優れたリーダーといえども
部下を助手として使っていたのでは
たいしたことはできない。
組織は、一人の人間ができることを
簡単に超えて成長する。」(ドラッカー)
よく言われますね、「組織は社長の器以上に大きくなれない」と。
これってまったくの誤解ですし、そんなことを言う人は自分が組織のピラミッドの頂点に立つ人間であるという傲岸不遜な考え方がその根底にあります。
何もかも自分が取り仕切っている、絶対権力者だ、だから従業員は自分の手足のように使う‥‥極端に言ってしまうとそんな考え方ですかね。
およそ30店舗を展開する美容室の経営者の方と雑談をしていたときです。
順調に店舗数を増やしていて事業も成長軌道に乗っているなと傍から見ていたのですが、こんな言葉がその方の口から発せられたのに驚きました。
「社員は一人として評価できる者はいません。技術だって自分が一番ですし、マネジメント能力は言うまでもありません」
経営者となって三十年、れっきとした経営者のキャリアを重ねてきた方です。
その言葉を聞いたとき、思わず我が耳を疑いました。寄る年波には勝てず、最近耳が遠くなってきていますから聞き違いだろうと思い直したのですが、その方の話は続きます。
「だから誰も私には反論できないんです」
どうやら聞き違いではないようです。自分が一番偉い、偉いことを赤の他人である私に吹聴する。
冒頭掲げたドラッカーの言うように、社員を「部下」あるいは「手足」としか使っていないのですね。社員ばかりでなく役員も全部です。
これは後継者に対しても同じで、自分の息子さんさえ後継者として認めていないようなのです。
自分以外は全員が一平卒!
これははっきり言って経営者失格です。
なぜなら、組織づくりをしてこなかったからです。特にマネジメントチームを作ってこなかった。
あるいは作っているのかもしれません。
でも、形だけあっても本来の意味で機能不全。そう思います。トップの顔色を見ながら意見を述べる。今はやりの“忖度(そんたく)”ですね。
自分を知る
しょせん一人の力には限界があります。限界があるから組織は力量以上に大きくはなれないと思い込んでしまうのです。完全な組織(会社)の私物化ですね。
自分の力なんてたいしたことない、これっぽっちの力しかない。
そうやって謙虚に自覚しなければなりません。
私のコンサル先も事情は同じです。
自分の力を自覚している謙虚な経営者はぐんぐん伸びます。
反対に、アドバイスに従わないで、自分の力を過信している経営者は、事業がいったんつまづけば、その原因をスタッフのせい、環境のせい、あるいはコンサルのせいにして、自分に責を求めることはありません。遅かれ早かれ事業縮小を余儀なくされ、やがて消えていきます。
こういう美容室は嫌になるほど見てきました。
『論語』にこんな一節があります。
「これを知るをこれを知るとなし、知らざるを知らずとなせ。これ知るなり。」
簡単そうに述べられていますが、この言葉の意味をじっくり考えてみると、つくづくすごい言葉だなと実感します。
知らないことは知らないこととして謙虚に人の意見に耳を傾ける。
これが本当に「知る」ことなのです。
つまり知っていること、知らないこと、できること、できないことも含めて「己を知る」ということです。
でも、これがなかなか難しい。
けっして、なんでも知っている、なんでもできる、そんなスーパーマンはいません。経営者も同じです。技術はできてもマネジメントはできない、マネジメントはできてもマーケティングは不得手、マーケティングはできても財務は苦手。財務はできても新しい事業のアイデアの創出力がない‥‥。
これが偽りのない姿ですよね。
そこでマネジメントチームが有効になるのです。
技術はいまいちだけど人を統率する力がある。
集客のいろいろなアイデアや新しい情報を持っていて実際に成果を上げている人がいる。
いろいろとおもしろい事業ネタを持っている。
こんな人がスタッフの中にいるものです。もし一部に適当な人がいなければ、一時的に外部のコンサルタントや税理士に頼ってもいいでしょう。
それぞれが持っているその力をもっと伸ばしてくれるように環境とポジションを与えるのです。
そしてマネジメントチームを作る「目的」をしっかり話して理解させ、期待をかけるのです。
もちろん経営者の掲げるミッション(目的)は共有していることが条件です。
そうやって適材適所の人材配置からなるマネジメントチームを作っていくのですね。
そうなると、冒頭ドラッカーの言葉にあるように、「組織は、一人の人間ができることを簡単に超えて成長する」のでしょう。
気づいたときには、経営者の右腕となる人材が幾人も育っているはずです。なぜなら、自分の店、自分に与えられた従来のポジションという「部分最適」の思考から抜け出て、組織全体の利益と進むべき方向性を視野に入れた「全体最適」の思考を身に付けられるように自然に学習するからです。
それは同じマネジメントチームの他のメンバーから、知らないことを学ぶ、そして学んだことを現場でフィードバックして実証するという「習慣」が生まれるからです。
そして、互いをリスペクトし合うという「文化」も生まれてきます。
組織が機能すれば加速成長する
そうなると組織は強くなります。
成功へと加速成長していきます。
なぜなら1+2+3‥‥という単純な足し算ではないからです。
1×2×3×4×‥‥というように掛け算で進化するからです。
これが「組織のダイナミズム(活力)」というものです。
そう言えばあのアマゾンのジェフ・ベゾスを頂点として17人の最高幹部で構成された「Sチーム」はトップマネジメントチームとして現在最も成功した例だと思います。
イノベーティブな組織には、
事業の全体にわたって、
学習の雰囲気が不可欠である。
それは継続学習を創造し、維持している。
誰であれ、自分自身が学習を「完成した」と考えることは
常に許されない。
学習は組織のメンバー全員にとって、
継続する過程である。
(ドラッカー)