本来の主旨とズレ
当業界でも「経営計画」を作成することはすっかり定着した感があります。
私も各社の経営計画書に触れる機会が多いのですが、単純に疑問に思うことが常です。
それは、本来の経営計画の主旨とだいぶズレたものになっていると思うからです。
そもそも経営計画書とは、
トップが、あるいはトップマネジメントチームが、しかるべく経営判断をして、経営目標を立て、経営計画を作るというものです。
これが事業推進の大きなロードマップです。
経営計画を立てるということは、
「目標」を立てるということです。
目標を立てるということは、
目標を達成するための「戦略」と「戦術」を打ち立てるということです。
確かにそうなんです。
そうなんですけど、重要なことが欠けているのですね。だから多くの経営計画は目標が達成できずに終わってしまっていると言っても過言ではありません。
絶対欠かすことができない2つの重要なこと
じつは、経営目標を立てる前にやらなければならない重要なことが2つあるのです。
それは「集中の決定」と「ポジショニング」です。
この2つの重要なことは連動しています。
集中とは選択と集中のことであり、選択と集中とは、
何で勝つかを明らかにする、ということです。
このように「集中の決定」と「ポジショニング」は連動しているのです。
さて本題です。
“選択と集中”というと、
「力を入れる製品・サービスを一つに絞ること」
という間違った考えが一般的になっています。
ドラッカーはこう言っています。
「集中の決定とは戦場の決定である。
この決定なくしては、
戦闘はあっても戦争にはならない。
集中の目標は、基本中の基本というべき
重大な意思決定である。資源は限られている。
集中することなくして成果をあげることはできない。」
ヒト、モノ、カネといった経営資源は無尽蔵ではありません。そこで企業は、限られたヒト、モノ、カネを有効に活用するために事業分野の「選択と集中」を行います。
「選択」とは、今後の自社の方向性を決めるうえで注力したい事業を選び出し、それ以外を縮小あるいは売却、外部委託(アウトソーシング)すること。
また「集中」とは、選び出したコア(中核)となるビジネスに自社の持つ経営資源を集中的に投入することです。
予算も、従業員の数も、時間も限られています。
「何に力を合せればいいのか」をはっきりさせなければ、経営資源は分散してしまって成果を上げることはできません。
つまり、選択と集中とは、
「力を入れる製品・サービスを一つに絞ること」ではなく、
「何を軸に事業を運営するかをはっきりさせる」
ということなのです。
各社の例を紹介しましょう。
●アスクルは「オフィスに必要なものはすべてあるという商品ラインナップ」を中心に。
●ドミノピザは「30分以内に商品をお届け」を中心に。
●ダイソンは「洗練されたデザイン」を中心に。
●アマゾンは「地球上で最も豊富な品揃え」を中心に。
●セコムは「ホームセキュリティー」を中心に。
●QBハウスは「10分でカットだけ」を中心に。
事業を運営しています。
たとえば、良くも悪くもみなさんに一番なじみの深いQBハウスは、それまであった理容のサービス内容(総合調髪:刈って、剃って、洗って、セットする総合パッケージメニュー)に対してカットだけを取り出して10分間という選択と集中をしました。
そして「10分間の身だしなみ」あるいは「カットオンリー、10分1000円」(現在は1200円)のキャッチフレーズ(USP)のもと、どこでもやっていない業界初というポジショニングで業界を席巻していったのです。
吉田松陰の選択と集中
ここであるエピソードを紹介します。
吉田松陰の『講孟余話』のなかに出てくる一節です。
松陰がまだ10代のころ、剣道を学ぼうとしたことがありました。そこで柳生新陰流の剣道師範である平岡弥兵衛を訪ね、入門を願い出ました。
驚いた弥兵衛に理由を尋ねられ松陰は、「儒家に生まれたとはいえ、剣を携える以上は、剣を用いる方法を知らなければ武士の面目が立ちませんから」と答えました。
しかし体力的に見て剣道が不向きであると思った弥兵衛は、松陰が行っている教育も剣道も、目的は同じ「人間の完成」にあると松陰を諭しました。
さらに、不得手なことがあっても、恥じることはない。それを無理してやる時間があるなら、得意なことに費やして社会に貢献するほうがよいと述べたのです。
これには松陰も納得し、なおのこと教育活動に励み、松下村塾を開くに至ったのです。
このエピソードからもわかるように、人生も選択と集中なのですね。
前述した通り、集中とは「力を入れる製品・サービスを一つに絞ること」
ではなく、
「何を軸に事業を運営するかをはっきりさせる」
ということなのです。
選択と集中で、何を軸に事業を運営するかをはっきりさせ、はっきりさせたらポジショニングで勝つ領域を決めることなのです。
事業の繁栄のためにマネジメントチームで次のことを明らかにしてください。
「わが社は〇〇を軸に事業を運営する」
あなたの会社は「〇〇」にどんな言葉が入るでしょうか?
多くの経営計画書はこの一文がありません。
成功の鍵は的を見失わないこと。
自分が最も力を発揮できる範囲を見極め、
そこに時間とエネルギーを集中すること。
(ビル・ゲイツ)