あるサロングループのことを書きます。
衝撃的といっていいほどのとてつもない業績を上げているサロンです。
都内有数のビジネス街、繁華街を中心に25店舗、海外に1店舗を展開。売上は前年比でおよそ160%。きわめて順調な右肩上がりの業績を上げています。
そしてなんといっても、オドロキなのは従業員の年収です。
20代で年収1000万円台がゴロゴロ。店長になると2000万円台を突破するのです。
それも不人気といわれる理容室でこの数字なのですよ!
本ブログではその秘密を明かします。
そう、まさに「秘密」です。
業界の中で恐らく私以外は知り得ない秘密です。
読者の方には特別にこのもぎたて新鮮な情報を公開しますね。
その「秘密」を知った、というよりも推論の果てに確信できたのですが、そのいきさつとはこうです。
なぜ「秘密」を知り得たのか?
理容業は師弟関係が美容業と違って厳格です。ですから修業先の先生には絶対服従といった「文化」がいまだ色濃く残っています。
その修業先から独立して現在の業容を築いたのですが、その「先生」から取材したらいいよと勧められました。(前職のわたしが編集者だったときの話です)
先生からのお勧めですから嫌とは言えません。そこで意気揚々と電話したら、「とても忙しくて対応できません」とのつれない返事。
あれれ、話が違うじゃないか、どうしたんだろうと「先生」に報告しました。「先生」はしばし言葉に詰まった後、じゃあ資料を送るから参考にしてほしいと、後日、先生から資料を送っていただきました。
資料とは、そのチェーン店が掲載された雑誌で、それも業界人には馴染みのないコテコテの経営関連の雑誌でした。
掲載誌を熟読し、繁盛の理由はそれとなくわかりました。しかしあくまでも「それとなく」です。
記者がそこまでの知識がなかったのか、想像力がなかったのか、あるいは事実がわかったとしても、わかっただけに掲載できなかったのか。
仮説から導き出した確信
そこで私は誌面の内容をさまざまな角度から分析を試み、想像力のありったけを動員して、ひとつの「仮説」を私なりに導き出しました。あくまでも「仮説」です。これが正しいのかどうかわかりません。
でも、編集者として身に付けた、1つひとつの事実の背景にある構造を読み解き、ロジカルなストーリーとしてまとめ上げる能力を私自身信じています。これが信じられないと、我が半生を費やした編集者人生がまるごと否定されたに等しいことになります。
だから、自信があります。
その編集者としての経験とスキルを総動員して、これから、なぜそのサロングループがめざましい繁栄を続けられるのか、その秘密に迫ってみたいと思います。
ですから、対象となったサロンの名誉のために実名は出しません。
アッと驚く給与制度の秘密
じつはその秘密はすべて給与制度にあると言っても過言ではないのです。これがそのまま事業のコアとなります。
まずは次のグラフを見てください。
これは同社のホームページに公開されている情報です。新卒者の月給は27万円となっていますが、今春からは28万円になります。
とても高給で優遇されているのがわかりますね。
では、もうひとつの図を見てください。
こちらは給料の内訳です。
入社1年目~3年目は「基本給」の占める割合が多くなっていますが、4年目、5年目(副店長)は個人歩合給が多くを占めるようになります。
そして目を惹くのは、6年目(店長)の給料の内訳はガラリと変わって、基準給40万円と店長歩合給の多さです。
さらに、さらに目を惹くのは‥‥赤い色で図示された「新店出資利益還元」です。
これ、なんだと思いますか?
これはですね、グループで新規出店する場合、銀行からの借入で資金を充当させているのではなく、他の既存店の店長が開設資金を「出資」しているのではないかと推測できるのですよ。そして利益が出れば出資した金額に応じて店長に還元されるという仕組みなのです。
その内訳を標準モデル(月ベース)を基にシミュレーションをしてみました。
【新店舗】
売上高 700万円
材料費 40万円
粗利益 660万円
販管費 505万円
営業利益 155万円
経常利益 150万円
税引き前利益 150万円
純利益 100万円
きわめて乱暴な計算ですが、理解しやすいようにあえてそうしました。この純利益100万円は年に換算すると
100万円×12カ月=1200万円
この1200万円を、出資した店長の出資金額に応じてシェアするのです。
たとえば100万円出資した店長が10人いれば、1人当たりざっと100万円以上の「利益還元金」が手に入るわけです。
キャピタルゲインというわけですね。とてつもない100%の高配当です!100%はオーバーとしても1、2年目で元が取れて以降はすべて丸々の利益です。だから新店舗の開設があればこぞって出資をするわけですね。
もちろん新店舗1店舗だけではなく、複数の店舗に出資していれば、それだけの還元金が手に入ります。たとえば100万円を10店舗に出資していれば、還元率100%と仮定すれば毎年1000万円以上の還元金となるわけです。
これが店長職にある人の年収2000万円の秘密です。
既存店舗の収益モデルは、このように利益が出るようなモデル(例えば営業利益率20%といったように)として確立されています。同じような立地、似たような客層、そしてもちろん同じサービスメニューと料金、同じ接客対応力ですから、それほどの誤差は発生しません。
独自の給与制度は高いモチベーションとリンクする
このような出資金のスタイルは法律に照らし合わせて問題はないのでしょうか。法律家ではないのでわかりません。その辺のデリケートな事情から、私の取材のオファーを拒否したのかもしれません。考え過ぎかもしれませんが。
それはともかく、銀行借入はしないで、じつに特異なやり方で店舗運営資金を工面して店舗開発をしていることになり、そこに連動した給与システムとなっているのです。
これでは出資した店長は担当の自店舗はもちろんのこと、出資先の店舗の業績に貢献することは、自分の利益に直結しますから、人材の出張応援や既存客への告知・宣伝も含めて積極的に行います。
当然ですが、この過程においては経営者意識を持った人材が育っていくことにもなるわけですね。まさに身銭を切って覚える実践教育なのです。
早く出資できる特権を手にできるために、他の従業員は自らスキルアップをはかり店長職を目指します。
これが好業績と出店を加速させる原動力となり、従業員の高いモチベーションを維持できる源泉ともなっているのです。
もちろん、これ以外でもモチベーションアップに関するさまざまな仕組みを導入されているとは思います。一概にこれがすべてとは言いません。
ですが、従業員にとって、根拠のない掛け声だけ、あるいはブラックな恐怖統治のモチベーション鼓舞のやり方ではなく、じつに人間心理に精通した科学的に根拠のあるモチベーションアップの方法であると言えますね。
人材の絶対数が少ない理容業界にあって、就職に絶大な人気のあるサロンです。
こういう組織は強い。
必要に応じて組織を小さなユニットに分割し、中小企業の連合体として会社を再構成する。
そのユニットの経営をアメーバリーダーに任せることによって、経営者意識を持った人材を育成していく。
(稲盛和夫)