タクシー会社の解雇に思う
本題に入る前に、気になるニュースが流れてきましたが、そのことについて少しふれてみたいと思います。
それは、タクシー会社が全乗務員の600人を解雇したとのニュースで読者の方もご存知だと思います。もちろんコロナ禍の影響で、売上が激減してしまったという理由からの措置です。
あなたはこのニュースにふれて、どんな感想を持たれましたか?
「なるほど、大変な事態になった。明日は我が身か」
「自粛要請ばかりで政府が補償してくれないから、こんなことになるんだ」
「結局、会社を守るために社員が犠牲になるのか」
‥‥‥etc。
いろいろな意見をお持ちだろうと思います。
しかし私は悲観的な意見をまったく持ちません。なるほど、こういう方法もあるのかと感心さえします。
というのは、確かに会社からしてみれば、やむにやまれぬ決断だったとして、これは社員にとってみれば、職を失ったからといってすぐには路頭に迷うっていうことにはならないからです。
なぜなら失業保険が、この場合は自己都合で退職したのと違い会社都合だから、すぐに支給されるっていうことです。すぐに支給とは、7日間の待機期間を過ぎれば、支給されるということです。自己都合は確か3カ月間の待期期間だったと思います。
それも、今までもらっていた月給の50~80%を支給され最大260万円、受給期間は90日間から最大330日間というもの。
そして、やがてコロナ禍が終息し営業再開となれば、社員を再雇用する。
会社と社員の双方を守るセーフティネットだと思うのですね。
一方、話題の「雇用調整助成金」です。社員の雇用を継続させるために設けられた助成金ですが、申請手続きが煩雑で面倒、支給開始までの期間が長すぎる(2カ月から半年)、めでたく申請が認められたとしても会社からの資金の持ち出しは継続する、など、使い勝手が正直に言って悪いです。
そんな雇用調整助成金に頼るよりも、よほど安心確実でスピーディに受給開始できる「解雇」というセーフティネット。選択肢のひとつとして考えてもいいのでは。そう思います。
ただし、このニュースにあるように、「再雇用する」なんて公言するのは問題であると思いますね。計画倒産ならぬ計画解雇のようで、素人考えですが、失業給付金の不正受給と判断されかねないのでは、と危惧します。
あくまでも解雇された社員は、ハローワークの窓口で、解雇された会社から「再雇用を保障されている」なんて言ってはいけないと。念のため。
緊急融資、助成金、そしてこの「解雇」というように、選択肢が多ければそれだけ会社と社員を守るための優位な行動がとれますので、お伝えしたまでです。悪用は厳禁です(笑)
痛い思いをして学んだこと
ブログの底に流れるテーマは、前回に引き続き「マインドセットを変える」ということでしたね。本題に入りたいと思いますが、この「解雇」も、言ってみればマインドセットを変えることにつながります。こういった、他人が気づかないことに気づくことも、マインドセットを変えるからこそ生まれる発想や考え方です。
前回のブログが、新規事業のためのマインドセットについてお話しましたが、今回は、美容業・理容業のコア事業、つまり「本業」についてです。
ここであなたに質問です。
このコロナ禍で大変痛い思いをして学んだことはなんでしょうか? あるいは学びつつあることは? 私は当事者ではないですが、私自身の悲しい過去の経験を加味すれば、以下のことを学ぶことができました。マインドセットを変えるきっかけになったことばかりです。
・集客を大手集客サイトに頼ることの危うさ
・困難ななかリスクを承知で来店してくださるお客様のありがたさ
・固定客、なかでも上位客との関係維持の重要性
・社長と社員とのエンゲージメント(絆づくり)の大切さ
・SNSでの情報受発信の重要性(自分はけっして孤独じゃない)
・サロンの本当の価値とは何か。気付きと事業の再構築
美容業ってなんだろう、理容業って何だろう? 社会のために必要とされるその存在意義ってどういうものだろう。少なくても自店の存在意義は?
こんな事業の根幹に思いを馳(は)せる時間を過ごし共有していると思います。
学び、そしてお店の存在意義とは何かと考える。余計なモノやサービスを取り払って、最後の最後に残るもの。最後に残ったものを捨て去ってしまえば、自店が存続できないくらい、ギリギリ最後に残る大事なもの。
それは何か?
余計なものを取り除いて最後に残った重要なこと
答えは、たった1つのことに行き着くのだと思います。
それは、「人と人との関係性の密度」であると。
お客様に対してもそう、スタッフ同士においてもそう、従業員と経営者に対してもそう。
「人と人との関係性の密度」であると。
今回の、いつ収束するかもわからないコロナ禍のさなかにあっても、長時間、お客様とスタッフとで1対1で対応せざるを得ない仕事。それが理美容業です。理美容業のアイデンティティです。これを捨てて仕事はできません。仕事そのものが成り立ちません。リモートワークなんて最も無縁な仕事なのです。
当然、その関係の中にはカットがあり、カラーがあり、シャンプーがあります。同時に、スタッフとお客様との気持ちが重なり合う時間もあるのです。
スタッフは、カウンセリングをし、個々のお客様のさまざまなお悩みや問題点を聞き出し、お悩みの解消、問題解決のために真剣に施術をします。もっと、こうすれば素敵になれると、プロとしてさまざまな提案をします。なぜなら、そこに
いらっしゃるお客様は、唯一無二の、かけがえのないお客様であるからです。
そういう思いと思いから発した言動の真意は、必ずお客様には伝わります。ああ、この人はこんなにも私のことに関心を持ってくれているんだと。多くいるお客のなかの単なる1人としてではなく、大切なお客(存在)として一所懸命に接してくれているんだ。‥‥ありがたい、と。
こういったことの地道でひたむきな繰り返しが、徐々に「人と人との関係性の密度」を増すことにつながるのです。人と人との関係を構築するのに“奥の手”や“裏ワザ”はありません。まして“インスタント”などもってのほかです。すべては「凡事徹底」の行為と時間の積み重ねなのです。
ここに「人と人との関係性の密度」が醸成されます。醸成とは、酒や醤油を発酵させて時間をかけて醸(かも)し出すという意味です。
美容業の最大の「強み」
1対1で接客するビジネス。それが理美容業です。そんな業務のあり方が、コロナ禍において感染するのではないかといった風潮になって逆風にさらされているようですが、逆に、関係性の密度の濃いお客様はそんな風潮や逆風をものともせずに通ってくれています。
なぜなら、「欠かせないお店」だから。
これが、コロナ禍においての決定的な業績の「差」なのです。
・高いお金を投資し新規客の数を競うのでありません。
・技術力だけでは人間性の密度は築けません。
・メニューの多さで人の関心は呼び起こせません。
・まして低料金やクーポンでお客様のロイヤリティは築けません。
・立地の良さはすでに集客の優劣に無関係です。
・店舗の規模も関係ありません。
・店舗数やスタッフ数の多さは優位に働きません。
・マーケットシェアを競うのではなく、お客様の「マインドシェア」を競うのです。
そうです。今こそ経営者はマインドセットを変える時機です。
1人ひとりのお客様のことを思い描く。普段のお手入れに困っていることはないか、今のヘアスタイルに不満はないか、本当は私たちにどうしてほしいのか。
そんなお客様の思いに馳せる、想像する。
そのための事前と事後のカウンセリング、プロとしての前倒しの提案、アフターフォロー、日頃からの個々のお客様を想定しての事前ミーティングとシミュレーション、来店感謝メールや手書きのハガキ送付、顧客情報の収集と積み重ね管理、反省とフィードバック‥‥こういう当たり前のことを当たり前に積み重ねていく凡事徹底の習慣。
習慣はやがてそのお店独得のオリジナルな「文化」になります。
「文化」にかなうライバルは存在しません。なぜなら、文化は最高のコンテンツだからです。最高の付加価値だからです。
どんな時代になろうとも、どんな事態に見舞われようとも、揺るぎのない、究極の生き残り策であり、勝ち残り策なのです。
文化は戦略を打ち負かす。
(ドラッカー)