withコロナの現在、経営者は多くの、そしてビジネスの根本を学んだ、あるいは学びつつあるのではないでしょうか。
まだまだ予断は許されません。政府の政策対応にイライラし、時には悲嘆にくれたとしても、緊急融資などで急場をしのいだ人も多くいると思います。緊急宣言が解除され、理美容室には、それまで来店を我慢し続けた人たちが一気に押しかけ活況を呈しているといった報告を聞いています。
しかし北九州市に見るように、コロナ感染の第2派、第3派がやって来るはずです。完全に終息するまでは1~2年は覚悟しなければなりません。
さらに、感染防止策のため、たとえば席と席の間を開け予約制限などの措置を取っていますから、コロナ禍以前の状態に戻すにはなかなか困難が伴います。
徹底した感染防止策こそが差別化
そんな折も折、北海道の岩見沢市の美容室からクラスターが発生したのではないかといった報道がなされ一気に緊張が高まりました。
さらに、これは日本ではありませんが、ロックダウン解除後に米国ミズーリ州にある美容室で140人のクラスターが発生したとの報道もなされました。
こうなると、技術の優劣や料金の高低、立地の良し悪しといったことは差別化にならず、徹底した感染防止策を取っているかいないかが顧客の最大の関心事で、これがそのまま最大の差別化になっていることを経営者はよくよく認識しなければなりません。多少料金が高くても、感染防止策を徹底しているサロンをお客様は選ぶ傾向が強いということです。
これが偽らざる現実です。
だから自店をアピールするホームページその他では、感染防止策をこれだけ徹底してやっていますよ、とのアピールは必須です。なるべく目立つように(もちろんトップページに)徹底ぶりをアピールした告知を行ってくださいね。
「えっ、ここまでやるの?」
そう、やり過ぎと思われるくらい徹底したほうがいいのです。
さて、そんなwithコロナの状況下、あなたが学んだことはなんでしょうか? あるいは学びつつあることは? 事態に真剣に対応しようとすればするほど学びは多くなります。
コロナ禍で何を学んだか?
【1】お客様とのリレーションシップ
1つは、「お客様との関係維持・強化(リレーションシップ)」がどれだけ重要であったかの再認識ではないでしょうか。こんな非常事態でも自店を見捨てなかった一定の顧客層。これこそお客様とのリレーションシップがよく取れていることの証です。
お客様にしたって事情は同じです。こんな非常事態でも来店したお客様。あるいは来店までは勇気がなくてできなかったけれど、緊急宣言解除とともに、我先にとばかりに押しかけたお客様。
そんな顧客心理が働くからこそ、私が何度もおススメした、あなたのお店の気持ちがストレートに伝わる「アナログの手紙作戦」が効くのです。素直に従ってくれた読者の方から、お客様からいただいた感謝の返信の手紙やメッセージを報告してもらっています。うれしい限りです。こういう非常時にこそ、お客様との絆は深まるのですね。
と同時に、離れていくお客様もあります。そういう意味では、必要なお客様とそうでないお客様との線引きが明確になったとも言えます。
だから、あなたの打ち出すお店のコンセプトやウリを必要としている潜在客、つまりあなたのお店が絶対来てほしい可能性のある顧客層へ向かって集客を仕掛けることが、いまこそ最重要の課題となったことを意味しています。
そのための再度のコンセプトの見直し、アピールする最適なツールは何かを検討し直すことが求められています。
その具体的な方法は過去のブログで何度も発信していますので、関心のある人は読み直してみてくださいね。
ただこれだけは強調しておきます。
お客様との絆づくりは簡単には実現できないということです。何度も何度も、具体的なお客様の顔を思い浮かべて、今度いらしたときにはこんなヘアスタイルを提案してみよう、ホームケアのためにこんなケア方法と商品を提案してみようといった前倒しの提案の習慣づけ、これが大事だということです。なぜならお客様は「生涯のお客様」として素晴らしいライフステージを送っていただきたい、そのための美容のプロとしての責任を負うという意識付けが美容師には欠かせないからです。
そんなにまで私のことを考えていてくれたのね、といった感動を呼び起こし、こんな私でも心から気遣ってくれる人とお店があるのだとの感謝の気持ちを誘引し、なんとも言えない深い安心感に浸ることができるのです。
それはお客様が、あるがままの自分でいい、あるがままの自分でいられるからです。そんな貴重な時間と空間にあなたの美容室がなり得るからです。
これ以外に深い絆づくりへの方法なんてあるわけがありません。絆づくりとは、そんな「人間性を回復させてくれる唯一無二の存在」があなたのお店であるということです。
そういうお客様とのリレーションシップが築ける美容室こそ最強なのです。
さらに、絆がしっかりと構築できていれば、「紹介客」を無理なく獲得できるはずです。
その場合の無理のない紹介依頼のテクニックとして、私のよく知るサロンプランナーの迫田恵子さんがその著作『小さなサロン 失客しない「価格改正」の方法』(同文館出版)で述べられていることですが、既存のお客様がお友達を紹介してくださった場合、双方に「ご紹介特典」として1000円の値引きをするというものがあります。
この際注意すべきは、施術料金から○%引きという割引をするのではなく、1000円という値引きをすること。割引だと施術料に応じて引かれる額に差が出ますが、どちらも同額を引くサービスであれば、不満が出ないからです。
A様という既存のお客様がB様という新規客を紹介してくださったとします。B様にはもちろん、その日の会計からご優待券の1000円を値引きします。A様に対しては、A様の次のご来店時に1000円の値引きをするのが一般的ですが、その日のうちにお礼状と一緒にご優待券を郵送するのです。
するとA様の反応は、「わざわざ送ってくれたんだ、律儀だな」と思うはずです。
迫田さんはこう述べています。
「常連のお客様がご紹介してくださるのは、1000円の値引きが欲しいからではありません。あなたのことが好きだからです。そうは言っても、親しき仲にも礼儀あり。礼儀を忘れないことで信頼関係を構築し、集客費用をかけずとも、早く確実にサロンの魅力が伝わる方法=口コミ紹介で新規を増やしていくのが理想です。不特定多数の人に集客費用をかける前に、紹介を依頼するシステムを構築しましょう。」
どんなにデジタルが進展しようとも、お客様とのリレーションシップには、こういったアナログの心遣いが欠かせないのですね。
そう、お客様とのリレーションシップを構築するためにはシステム=仕組みづくりが重要なのです。同書は、値上げをうたっていて、表題の通り失敗しない値上げの方法は解説されているのですが、同時に、お客様とのリレーションシップ構築のためのさまざまな方法が具体的に述べられていて、おススメの本です。
【2】新規事業の創出
そして、もう1つ。
これは今回のコロナ禍で最も影響を受けた多店舗展開をしているサロンの経営者が学ぶべきことです。それは何か?
答えは、「新規事業の創出」です。
新規事業の正しい方向性は、ストックビジネスへの取り組みです。
理美容業は典型的なフロービジネスです。来店するかしないか、すべての決断はお客様に委ねられています。ですから今回のようなコロナ禍の状況下、まして自粛要請などで臨時休業、時短営業など強いられたらたまったものではありません。
特に多店舗展開する大型店への影響は甚大です。
これまでは多店舗展開して事業規模を大きくしていくことが業界の成功パターンとして確立されていました。
ところが事態は一変しました。大規模ゆえに固定費がかさみ、各種打ち出される国の政策は後手後手でショボくてまったくアテにならず、従来の多店舗展開というビジネスモデルは破綻しかかっています。
過去のビジネスモデルとサクセスストーリーを否定され、地団太を踏むようなくやしさと苦しみを味わっています。
最も苦しみを味わっている人にこそ事業の変革を起こすきっかけが訪れ、最もドン底を経験した人こそ変革へのエネルギーを持つことができます。だってそうですよね、招いてしまった事態にまず自問自答をするはずです。
・何がいけなかったのか
・掲げたミッションは絵空事だったのか
・急激な変化になぜ対応できないのか
・これほどの急激で大きな変化が起こるとは想像もできなかったのか
・いつでも修復可能な甘い予想しかしてこなかったのは経営者として未熟の表れではないのか
・未熟さを思い知ったけど、まだ事業を継続する意思があるのか
・生き方が根本から問われているのではないか
・はたしてこんな生き方をしていていいのか
・社員をも守り続けることができるのか
・今のままでは雇用も危ない、ではどうすればいいのか
・‥‥
そんな苦しい自問自答をして、それでも「俺は死なない」と決意した人には変革へのチャンスがやって来ます。これは歴史が証明していることです。
渋沢翁の変革へのエネルギー
新1万円札の顔となる渋沢栄一翁がその代表格でしょう。特に、今からおよそ100年前に起こった関東大震災。自ら被災者となった渋沢ですが、地震発生から8日後、渋沢栄一は新聞のインタビューで、「天譴論」(てんけんろん)というのを述べます。この地震は天からの「おしかり」であるというのです。
「大東京の再造についてはこれは極めて慎重にすべきで、思ふに今回の大しん害は天譴だとも思はれる。明治維新以来帝国の文化はしんしんとして進んだが、その源泉地は東京横浜であつた。それが全潰(全滅)したのである。しかしこの文化は果して道理にかなひ、天道にかなつた文化であつたらうか。近来の政治は如何(いかん)、また経済界は私利私欲を目的とする傾向はなかつたか。余は或(ある)意味に於(おい)て天譴として畏縮するものである。」
確かに幕末維新をかいくぐった人間というのは、自分の命を捨てる覚悟で、日本のため、公益のために尽くそうとしました。しかし、いったん体制ができてしまうと、いつしか私利私欲が関心のほとんどを占めてしまっていて、日本のため、国益のためといった大きな目的がどこかへ行ってしまいます。そんな人間への猛省を強いるのが関東大震災であったと渋沢翁は考えたのですね。
そこで、『論語と算盤』に著されているように、さらに経済と道徳倫理の統合を説き、実践する人となって、500もの会社を作り、日本の資本主義の父と言われるようになっていくのです。
反対に、たいした苦しみを味わうこともなく、なんとなくやり過ごせてしまう人に、革命など起こせるはずもありません。なぜなら、現状に満足してしまうからです。
そんな辛酸をなめつくした経営者に新規事業創出のチャンスがやって来ました。真剣に考えれば考えるほど、さまざまなアイデアが浮かんでくるでしょう。しかしそれを事業として創出し継続させ発展させるのは並大抵のことではありません。
ただし、繰り返しますがストックビジネスであること、既存事業と相乗効果が望めるものであること。この2つを踏み外してはいけません。
そこで大変重要なファクターとして君臨するのが、マーケティングの知識と力です。詳しいことは別の機会に譲りますが、ここでは大変参考になる書籍を紹介してブログを締めたいと思います。
神田昌典さんの『マーケティング・ジャーニー』(日本経済新聞出版)です。
コロナ騒動を転機にして、未来は大きな2つの潮流になると著者は言います。
1つは、反グローバリズムの流れ。アメリカのトランプ大統領が象徴的に取り組んでいるように、どんどん周辺と壁を築いていく流れであり、だからといって断絶するのではなく、ローカルの良き伝統が見直され、壁の上、つまりクラウドを伝ってグローバルに広がる流れ。
もう1つは、デジタル変革(DX)の流れ。移動や人との接触に制限がかかるから、これまで対面で行うように規制・習慣化されていたあらゆる活動が、デジタルで済ませられるようなビジネス環境が加速するとして、年間に何日休みがあろうとも、社員がひとりも出社しなくても、成長できるビジネスモデル作りにすぐに挑戦していく会社が勝者になるということです。
そのための「市場」→「隙間」→「顧客」→「着想」→「調整」→「経済」→「協力」→「突破」といった、踏むべき8つの段階のマーケティング・ジャーニーを実践することによって新事業を創出する道筋を示した、今の時代に恰好の内容となっている本です。
こちらもおススメです。
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