これがペルソナのシナリオだ
前回の続きです。
ペルソナとはどんなものか、巷間言われているペルソナがなぜダメなのか、結論をいう前にまずはペルソナの見本シナリオを掲げましょう。
これが「ペルソナ」です。(※拡大してご覧ください。PCのほうがキレイに見えますね。もし見えにくいという場合は、私のメールアドレスを下に貼っておきますので、「サンプル希望」と明記の上、メールください。JPEGファイルでお送りしますね)
読んでしまえば簡単でスッと読めてしまいますが、このシナリオの中には顧客の持つ心理、価値観、人生観、人生哲学といった深い要素が含まれています。それはおいおい説明していきましょう。
作成の注意点
ペルソナとは、前回のブログで定義したように、あくまでも架空の人物を取り上げますが、その人物こそ「美容室が提供するサービスにとって最も重要で抽象的なモデル」のことです。いくら架空の人物だからといっても、人物プロフィールはイラストなどで抽象的に表すのではなく、生きた見本として具体的な「写真」が望ましいのです。架空の人物であったとしても、スタッフが人物像を共有できるためには具体的であることが必要です。
顔写真はネットで著作権フリーの写真を見つけます。ペルソナとして想定した人物像に相応しい写真です。
そして、名前も考えます。どんな名前でもいいですが、著名人や有名人の名前をそのまま付けるのはやめてください。イメージが固定されてしまって、かえって想定する人物像のイメージからかけ離れてしまいますので。
そして、基本的な属性を書き込みます。属性とは性別、年齢、居住地、居住スタイル、家族構成、年収‥‥といった定量データのことです。これは上位客の特徴となる最大公約数的なデータとして表します。
掲げたサンプルの場合は、タワマン居住で世帯年収1100万円となっていますが、あなたのお店ではどうですか? タワマン? 1100万円? そんな豊かな生活レベルじゃないよって? そうですか、あなたのお店の上位客、その代表的属性から判断してください。お任せします。
ゴール設定の重要性
そしてペルソナ・マーケティングにとって最も重要なこと、つまり「ゴール」を設定することです。なかには感心なことにペルソナを設定しているサロンもあるのですが、残念ながらゴール設定がなされていません。ゴールのないペルソナはまったく役に立ちません。とくに生涯顧客としての視点が欠落しているからです。
ゴールには、
- ライフゴール
- エモーショナルゴール
- エンドゴール
の3つのゴールがあります。
「ライフゴール」とは、人生のゴールのことで、ドラスティックに言えば、墓碑銘に刻む言葉です。こんな人生を送りたいという究極の願望のことです。人生の最大の価値観です。サンプルの場合は「良い母、良い妻、そして翻訳家としてのキャリアを実現したい」というライフゴールを掲げてみました。
この価値観を理解し、尊重して、ライフゴール実現のために美容のプロとして何ができるかを想像するのです。
次の「エモーショナルゴール」です。これは感情面でのゴールです。どういう感情(エモーション)が生きるうえでの行動を支配しているかを把握します。消費行動における最新の心理学から明らかになっていることですが、人は製品やサービスの機能的価値といった理屈で消費行動をしません。理屈を超えた感情で行動するのです。とても重要な点です。
サンプルでは「希望にあふれている」としました。
最後の「エンドゴール」は行動レベルでのゴールです。いつも行動を促す要素(モチベーション)とは何か。それを複数の候補を挙げて把握します。
サンプルでは「家族との楽しい時間を共有する」「子どもが幸せになるための道筋をつくる」「同じ仕事仲間とのコミュニケーションを密に」の3つのエンドゴールを示しました。
このようなことを要点として織り込んでシナリオの作成に入るのです。
さて、サンプルとして掲げたシナリオを読んでどんな感想を持ちましたか?
あたかも「立石ゆきの」さんが実際に存在するように、ありありとイメージできたのではありませんか?
架空の人物に過ぎないのですが、そのまま架空で終わらないのは、上位客の最大公約数的な属性に加えて、生きる価値観、人生の目的など総合的に抽出して判断し、立石ゆきのさんに集約させてシナリオを作成したからです。いわば、立石ゆきのさんがゴールに到達するための理想的なプロセスをペルソナの視点で描いた未来の物語なのです。
だから説得力があります。
仕上げは「タイトル」です。シナリオの要点を集約して端的に表したのがタイトルです。このサンプルでは「より良い人生を全うしたい! そのための良きアドバイザーを求む。」です。
出来上がったペルソナのシナリオは、いつでもスタッフが目にできるようにバックヤードの壁に貼っておきましょう。ことあるごとに朝終礼などでペルソナの話をする習慣もつけます。そうやってペルソナをスタッフ間で共有しておくのです。
LTVという背景にある考え方
さぁ、立石ゆきのさんが美容室に求めることが明確になりましたね。「より良き人生を送るためのアドバイザー」となって自分の願望実現のためのお手伝いを期待したいということです。
重要なことなので繰り返しますが、コロナ禍で得た教訓は、顧客の維持コストの5倍はかかる新規集客よりも(と言って新規集客をないがしろにしていいとは言っていません)経営の主眼を顧客との関係維持・強化に置くことです。
その延長上の考えにはLTV(Life Time Value:顧客の生涯価値)があります。数値に置き換えてみればはっきりしますが、たとえば単価1万円で年間5回通ってくださるお客様がいたとすると、1万円×5回=5万円
年間5万円の売上金をその美容室にもたらしてくれます。
これが生涯、あと30年間、同じ美容室に通い続けるとして、5万円×30年間=150万円の売上金をもたらしてくれる。
これがLTVです。
もちろん加齢とともに白髪染めやパーマなどの技術メニューや物販の購入が増えて単価は上がってきます。さらには紹介客も期待できます。誰を紹介するかは明確です。自分と同じような属性の人を紹介します。すると、6人紹介していただければLTVは6倍の900万円になります。
紹介された人がまた誰かを紹介するという紹介スパイラルが発生しますから、LTVは1億円以上にもなります。
これが、お客様を生涯にわたって囲い込むことで生まれるものすごい効果です。だから、何がなんでもお客様との関係維持・強化はサロンにとっての最大最重要のテーマなのです。お客様は、人口減少の時代、降って湧いて出てくることはないからです。
そのための欠かせないツールがペルソナ・マーケティングというわけですね。
新メニューや新商品の高い成功確率
ペルソナとして立石ゆきのさんの人物像をありありと描くことができました。その人物像をスタッフ間で共有できていれば、たとえば新メニューや新物販品の導入においても、スタッフ間で意思の疎通がスムーズに行きます。こんな新しいメニューがあるけれども、はたして「立石ゆきのさんは喜んでくれるだろうか?」と。お客様という漠然としたイメージではありません、すべて立石ゆきのさんを起点にした発想になりますから、今までのようにスタッフの主観で発想して議論が迷走するなんてことはありません。導入の失敗確率は極端に低くなります。
またシナリオに書いたように、「髪の毛のコシがなくなり、またパサつき加減で、さらに白髪が目立つようになった」という、この年代層が共通にいだく問題点や悩みが情報共有でき、前倒しで新しいメニューへの提案(アップセル)をするチャンスと道筋が明確にもなりますね。
このペルソナ・マーケティングは、異業種がやろうとすれば、調査会社などに依頼して、顧客情報をゼロから集め、アンケートやグループインタビューなどをして意見を集約し、結果の傾向を分析して‥‥といったように、時間もコストもかかります。
ところが美容室はそれがない。今まで蓄積した顧客情報があるからです。とても有利な立場にあるのですから、やらない手はないですね。
ペルソナ・マーケティングに本格的に取り組もうと思えば、さまざまなノウハウがあり、奥が深い。また今回は取り上げることができなかった、カスタマージャーニーマップとの組み合わせによる、より強固なペルソナを作成することもおススメなのですが、まずは上に挙げた内容で私は十分だと思います。一度スタッフと楽しく取り組んでみてください。強力におススメしたい取り組みですね。
作成にあたっての疑問点などありましたらお気軽におたずねくださいね。以下にメールアドレスを貼っておきます。
顧客と市場を知っているのはただ一人、顧客本人である。したがって顧客に聴き、顧客を見、顧客の行動を理解して初めて、顧客とは誰であり、何を行い、いかに買い、何を期待し、何に価値を見いだしているかを知ることができる。
(ドラッカー)