目の付けどころが改善点
前回の続きで、今回は実際に数字を当てはめていってみますね。理解がグッと早くなります。
少々長めの文章ですが、ぜひお付き合いください。
その前に、繰り返しますが、大事な5つの項目です。
- 売上
- 粗利益
- 固定費のなかでも人件費(労働分配率)
- その他の固定費
- 利益
各項目の数値の目安として、TKCの経営指標(BAST)を基準とします。そして、わかりやすくするために切りのよい数値に直したものを以下に掲げます。(すべて%表示です)
「売上」が100だとしたら「変動費」(主に材料費:売上によって変動する)は10。粗利益は売上-変動費ですから90%です。この粗利益の高さは理美容業の特徴ですね。(変動費は会社に残らない、右から左にと消えてしまう費用です。だから、変動費を差し引いた粗利益が本当に会社で自由にできるお金ですし、粗利益以下の費用をいかに配分するかで経営者の実力がわかります)
そして、粗利益から「固定費」を差し引いた残りが「利益」です。
その固定費も、固定費の多くを占める「人件費」と、それ以外の家賃、広告宣伝費などの「その他の固定費」に分かれます。
また、粗利益に占める人件費の割合を「労働分配率」といいます。つまり、粗利益を生み出すために人件費をいくら投入したかの目安で、労働分配率が低ければ低いほど生産性が高い会社ということになります。人件費÷粗利益で求めます。事例の場合、人件費が50、粗利益が90ですから、50÷90×100で55(小数点以下切り下げ)となります。
これらの項目を目安として、決算書を手元に置いてあなたの会社の数字を当てはめてみてください。そして、%に置き換えてみてください。思うような利益が上がっていなかったとしたら、どこの項目に原因がありますか? 粗利益が低いためですか、人件費やその他の固定費が多いためですか?
目の付けどころが改善点です。
数字の逆張り発想
さて、経営の数字は戦略的に活用しなければ意味がありません。そこで、前回の予告通り「逆張り発想」をやってみましょう。
[利益を倍にしたい]
まずは、単純な逆張り発想をしてみます。
希望の利益を現在の倍にしたいと考えます。そうですよね、たとえ黒字であってもお金が残らない。そういうケースは多くあります。その原因は、単純に言ってしまえば利益の幅が薄いから。銀行へ返済したら手元に残るお金がゼロ、あるいはマイナスなんていうケースですね。「勘定合って銭足らず」の典型的なケースです。
ということで、利益を倍にすると目標設定しましょう。サンプルの利益は10ですから、これを20にするわけですね。
その利益目標を達成するために必要な粗利はいくらになるでしょう?
「その他の固定費」は30、「人件費」は50ですから80です。
粗利益は利益+人件費+その他の固定費の合計ですから、20+50+30=100。これが利益20を生み出すための必要な粗利益です。
では、必要売上は?
売上の90%が粗利益ですから、100÷90×100%=111
各項目の割合を変えないで逆張り発想をすると、利益を倍にしたければ単純に売上11%アップにすればよい、というふうになります。
では、売上111にするのはどうしたらよいか?
売上は客数×客単価×(年間)来店回数で求められますから、客数と客単価をほんの数%、来店回数もわずか0.数回アップさせるだけで可能です。実際にやってみましょう。
こういうお店があったとします。
(客数)500人×(客単価)7000円×(来店回数)5回=(売上)1750万円
客数500人を3%アップする→515人
客単価を5%アップする(5%は現実的で許容範囲)→7350円
来店回数を0.2回アップする→5.2回
(客数)515人×(客単価)7350円×(来店回数)5.2回=(売上)1968万円
1968万円-1750万円=218万円(売上増)
218万円÷1750万円×100=12
12%の売上増加となります。つまり、目標の11%アップは実現しましたね。
あくまでも「客数」と「客単価」と「来店回数」が売上を構成する3要素なのです。客数ばかりに目が行ってしまって、集客コンサルなどに高いお金を払い、コンサルの言うことを鵜呑みにして、クーポンの乱発で実質的値下げをしてお客さまを集めてもいいのですか? 単価が下がってしまい、おまけに来店回数が減ったのでは目も当てられません。目標とする売上は、高いコンサル料も取られてガタ減りですね。これじゃ、やらないほうがマシです。
売上を構成する3要素のそれぞれを同時に、少しずつアップをする。これが売上を増加させる賢明な策なのです。
[粗利益を1%アップしたとき、利益はどれだけアップするか?]
これは簡単ですね、固定費は変動しませんからそのまま。すると、利益は11となり、10%アップします。粗利益をたった1%アップしただけで利益は10%と2ケタ増になるのですね。
[月10万円の広告費を使うとしたら、最低いくらの売上アップが必要か?]
10万円の広告費を使うということは、「その他の固定費」が10万円増えるということです。固定費が10万円増えるということは、粗利益も最低でも10万円増えなければなりません。
粗利益は90%ですから、10万円÷90%(0.9)=11万円。最低でも11万円の売上を確保しなければならないわけです。
もちろん、これは損も得もない最低基準。得をしようと思えば11万円以上の売上が望ましいのです。
こうやって、お金の流れの仕組みがわかれば、正確に、さまざまな手を打つことが可能になります。さらに、ムダな手を打つこともなくなります。
もっとやってみましょう。
[売上150%達成したら、社員はいくら儲かり、会社はいくら儲かるか?]
美容室の実際の平均稼働率は40%程度です。半分も満たしていません。稼働率とは実際にスタッフが売上をもたらすために従事している営業時間中の割合のことです。ですから、残る60%は売上も利益ももたらさないムダな時間だということです。
ということは、現在のスタッフ数で稼働率を倍増する余力は十分にあるということですね。
しかし、倍増するのは極端すぎるし、現実的でもないでしょう。
そこで努力目標として150%とします。金額に置き換えて単純に150万円としましょう。粗利益が90%なので、粗利益は135万円。そして、労働分配率は55%ということなので、粗利の55%を人件費に振り分けます。
先にこの人件費のほうから考えましょう。人件費率は50ですから、売上150の50%で75万円に変わります。
その他の固定費は30のまま変わらないとします。そうすると、人件費75万円とその他の固定費30万円を足した固定費は105万円になります。
粗利益135万円から固定費105万円を引くと、利益は30万円です。
ということは、人件費は50から75に1.5倍になり、利益は10から30に3倍になるのです。
これなら、社員も会社もウハウハですね。
これを労働分配率から見てみましょう。
粗利益に対する人件費の割合が労働分配率ですから、50÷135で37となります。つまり、労働分配率は55から37となり18%も低く抑えることができたのです。生産性の大変高い仕事をしていることになります。
これが労働分配率を下げても手取り給料が増えるという仕組みです。給料は倍増とはならなくても、1.5倍にはね上がるとなったら、社員は誰も文句は言いません。社員は喜び、会社も喜びます。
とはいっても、150%は何がなんでも給料の上げ過ぎだと考えるなら、人件費率を下げればいいのです。ここでも、人件費率は下げても手取り給料は上がるという理屈はなりたちますので。
ここで少々付け加えておきたいことは、何かと問題が多い人件費を削減することについてです(人件費率ではなくて人件費)。“人件費を削減する”なんて社長が社員の前で宣言したりすると、途端に社員のモチベーションが下がります。退職なんて事態に見舞われるかもしれません。
そうではなくて、労働分配率を下げて、あるいは人件費率を下げても、社員の給料は変えない、または、社員の手取り給料は増やすこと。これなら社員は納得します。
さて、このように会社のお金の流れを理解して逆張りの発想をしていけば、資金繰りに窮して気づいたときにはにっちもさっちもいかなくなったなんてことはあり得ません。どの項目をどう手を加えるのか、正確な判断ができます。
さらに会社のビジョン実現のために、しっかりとした数字の裏付けができ、社員を巻き込んだ、ワクワクとした未来の設計も可能となります。
冒頭に挙げた5つの項目。項目ごとに最適な打つべき手が考えられ、具体的な行動計画が策定できます。たとえば、次のような手です。
●売上
➡売上を上げるために
・客数、客単価、来店回数の平均的なアップ
・クロスセル・アップセル、フロントエンドとバックエンドで単価を上げる
・集客(STP戦略、USPの策定、ペルソナ、GISマーケティング、Googleマイビジネス、新規客を確実にリピートさせる方法、リピーター化→固定客化→ファン客化へとステップアップさせる方法、次回来店予約を確定させる方法、etc)
・ジョイントベンチャー、アライアンスなどでキャッシュポイントを本業以外で持つ
●粗利益をアップするために
➡業者の相見積もり、仕入れ交渉、PB商品の開発、etc
●固定費のなかでも人件費率(労働分配率)を減らすために
➡固定費から変動費へとシフト、生産性に直結した給与システム、全社員経営参加型マインドセット、オープンブック・マネジメント、etc
●その他の固定費を減らすために
➡広告宣伝費の見直し、家賃減額交渉、無駄な出費の排除、etc
●利益を上げるために
➡以上の対策の策定と実施、進捗状況チェックとPDCA、etc
●おまけとして「資金繰り対策」
➡税引き後の利益から銀行への返済、設備投資の資金を用意した後で利益剰余金(内部留保)が確保できる(返済は税引後利益から)
・不良資産の処分
・返済の繰り延べ
・銀行の乗り換え、etc
このように対策は多岐にわたり、すべての項目が連動しているのです。ひとつだけ独立しているのではありません。ひとつだけ取り出して改善をしても失敗に終わります。
ですから、専門の社労士にお願いして画期的な給与システムを作ったところで、業績に連動し、なおかつ目標利益を実現して、最終的に社員に還元されるという理屈と仕組みになっていなければ、絵に描いた餅です。誰もついて来ません。
集客を専門とするコンサルにお願いして、たとえ集客が思うとおりになったとしても、単価は落とし、一度きりの来店でリピートが望めないとなったら、お店に利益は残らず、現場スタッフは疲弊してしまいます。
そんな弊害をなくし、思うような業績を上げるためには、また高い業績を維持し続け、社長も社員も、ワクワクする将来のビジョンを実現するためには、「会社のお金の流れを知る」必要があるのです。お金の流れがわかれば、どこの部分にどう手を打てばいいのか、明らかになってきます。
トータルで経営を把握する
改善点を見つけたとしても、最適解の戦略と戦術を経営者ひとりでやるとなったら手に余るかもしれません。そのときこそ私の出番です。
会社の基礎と骨組みであるミッション、ビジョンの策定から、会社のお金の流れの「見える化」を“カンタン納得”のいく図(残念ながらクライアントさんにしか公開できないツールです)で示し、どこに問題があるのかを一目瞭然で把握していただき、改善点を一緒に考えていきます。私の強みはその最適解を、豊富な事例として持っていて提供できることです。業界コンサルとしては唯一であると自負します(エヘン!)
そして、利益はなぜ必要なのか(けっして社長のフトコロに入るものではない。また、社長はなぜ社員の3倍も4倍も給料を受け取れるのか?)を、数字で「見える化」して納得のいくまで社員に説明します。社長の社員の間にある溝、つまり、わだかまりは情報量の差です。これを埋めることができるのは社外の第三者が適任です。
この溝を埋めない限り、わだかまりは消えず、もやもやとした感情に支配されて、組織はまとまるはずがありません。社員の退職が繰り返され、組織のパワーも発揮できません。(モチベーション専門のコンサルがいますが、効果は瞬間花火で終わるという原因はこの辺にあります)
3年後、5年後、10年後、会社はどうなっていたいのか。社長ばかりでなく、そこで働く社員もパートも、ワクワクするビジョンを実現するのは、社長であるあなた自身です。私はそのビジョンを実現するためのナビゲーターです。全力でお役立ちしたいと思っています。
以下に私のアドレスを記しますので、関心のある方はメールをください。「こんな問題があるんだが・・・」とご相談でも結構です、お気軽に。
「企業の利潤、商売の利益というものは、社会に対する貢献度によって決まるものであり、その貢献の度合いによって社会は企業に利潤をもたらす。
社会に貢献しない企業は、だから利潤は得られないし、得たとしても、またそれは何日も続かない。そしてその企業は社会から消え去ることになる。」
(飯田亮)