経営者の3大お悩み事
会社のお金の流れを知って、モヤモヤとした経営の悩みから解放されましょう。
だいたい経営者のお悩みは大きく分けて次の3つです。
- 人がいない
- お客がいない
- お金がない
まさに「ないないづくし」に経営者は置かれています。
しかし、お金の流れを知ることによって、この3つの悩みは解消されます。
考え方の順番としては、こうです。
手を着けるべきは「お金」の問題から
まず「お金がない」。
これはこういうことです。結局は、そこそこ売上が上がって黒字になっても、最後に残る現金が少ない、あるいは、まったくないという状態に陥るからです。
なかには、黒字決算していても、税金が支払えない、借入金の返済もできない・・・そんなケースが多い。まさに、勘定合って銭足らずですね。
だから、思う通りの利益が出れば、
➡①資金繰りに苦労することはなくなります。
➡②思う通りの給料をスタッフに払ってあげることができ、スタッフはもっとやる気が出て、結果的に生産性の高い仕事をこなすようになります。
➡③高給優遇での採用となれば、人手不足に悩む必要がなくなります。
➡④また、目標とする売上が達成できれば集客に苦労することもなくなります。
このように経営は連動しています。
ですから、「お金がない」という状態の原因がはっきりとわかって、その原因を取り除くことさえできれば、順番に経営はよい方向へと回り出すのです。
だから、「お金がない」から手を着けるのです。この順番を間違ってはいけません。
お金の問題を解決できれば、上昇のスパイラルが描け、経営は安定し、なおかつ業容は順調に拡大していきます。
ですから、「お金がない」に徹底的に注力しましょう!(しつこい:笑)
たった利益は5%
話を具体的でわかりやすくするために、TKCが先ごろ発表したBASTという経営数字の速報値を使って説明します。ちなみにTKCとは、全国横断の会計事務所を組織化した最大規模の団体です。
それによると、美容室の経営数字は売上高を100にしてこうなります。(よりわかりやすくするために、切りのいい数字に一部直しています)
・売上高・・・・・・・・・・・100
・粗利・・・・・・・・・・・・90
・変動費・・・・・・・・・・・10
(粗利率)・・・・・・・・・90
・固定費・・・・・・・・・・・85
人件費・・・・・・・・・・・50
その他の固定費・・・・・・・35
・利益・・・・・・・・・・・・5
これが黒字となった美容室の平均値の数字です。
まず「利益」に着目してください。利益はたった5%しかありません。この5%の利益から税金が引かれ、残った利益(税引後利益)から金融機関への返済をしなければいけないのです。
多くの人が勘違いしていますが、金融機関への借入金返済は税引後利益からです。
そこで、はたして返済できるのか? これが大きな問題なのです。
「お金がない」の真の意味
上の数値に実際の美容室の経営数字を当てはめていってみましょう。年間売上高3000万円、スタッフ4~5人程度の標準的なお店の数字です。※( )内が実際の数字。単位:万円
・売上高・・・・・・・・100(3000)
・粗利・・・・・・・・・90(2700)
・変動費・・・・・・・・10(300)
(粗利率)・・・・・・90
・固定費・・・・・・・・85(2550)
人件費・・・・・・・・50(1500)
その他の固定費・・・・35(1050)
・利益・・・・・・・・・5(150)
利益はたったの150万円です。
一般的なケースとして、銀行からの借入の目安は月商の3カ月分です。このケースでは月商の3カ月分は(3000÷12)×3=750ですから、750万円の借金があるとします。返済期間が5年の長期借入として1年間の返済金は150万円です。
あれっ、利益と返済が同じ額! もうお気づきですよね。
よかった、これで返済できる!って? いえいえ、そうはなりません。なぜって、それ以前に税金が差し引かれるからです。法人税、住民税、事業税など合計して30%程度は利益から差し引かれると覚悟をしてください。30%として45万円が150万円から差し引かれます。すると、150万円-45万円=105万円しか残っていないことになります。
すると――、そうです、借金が返済できないのです! なんという・・・
会社は借金で潰れることはありません。キャッシュが尽きて倒産するのです。
そこそこ売上が上がって利益も出た。立派な黒字会社なのに借入の返済ができない。
これが多くの会社(美容室)で起こっている現実です。
でも、まさか倒産させるわけにはいきませんから、自分(経営者)の貯金を切り崩して返済に充てる、あるいは銀行にお願いして返済条件を緩和してもらう(リスケ)ということになります。
これが多くの経営者を悩ます資金繰りの苦しさであり、「お金がない」という真の意味です。
最終利益から逆算する
こういう事態を引き起こさないように、考え方としては最終利益より逆算していくのです。
150万円の利益を倍の300万円にする。300万円なら税金(90万円)を納めても210万円は残る(税引後利益)。返済の150万円をした後に60万円は余裕資金としてプールできる(内部留保)。これなら経営は安定する。
こんな考え方ができますね。
では、利益を2倍にするためには必要売上はいくらなのか? 同じく2倍ですか? そんなバカな!
さっそく計算してみましょう。
目標利益は300万円です。固定費は変わらずに2550万円です。
以下の算式で求めます。
必要売上高=(目標利益+固定費)÷(粗利率)90%
(目標利益300万円+固定費2550万円)÷90%=3166万円
ということで、必要売上は166万円アップで済むのです。5%のアップですね。これなら目標売上としてなんとかなりそうですよね。ただ根拠なく10%アップだというより、説得力がありますよね、がんばれますよね。
実現可能な目標数字へ
そこで売上というのは以下の算式で求められるということを思い出してください。
売上=客数×単価×回数
売上はこのように因数分解できるのです。そして、各項目をわずか数%のアップで5%の売上アップは可能になるということを証明します。
いかがでしょうか。客数・単価で2%ずつのアップ、回数で0.1回の増加で3183万円、というように、各項目を同時に着手すること、それで売上目標の5%アップは達成されることになります。
客数のアップばかりに注力して、単価を犠牲にして集客しても、目指す売上増加は見込めずに、来店回数も初回の回だけでリピートが望めないとなったら悲惨です。広告代のコストばかりが肥大して回収できず、スタッフは報われることなく疲弊していきます。美容室が多く陥るパターンです。
スタッフの給料をなんと!30%アップ
次に、スタッフの給料に注目しましょう。人件費は売上に対して50%で1500万円ですね。5人のスタッフとして1500万円を単純に割れば、1人当たり300万円です。
この年収を30%上げてあげたい。1人当たり90万円のアップです。かなりのアップ額ですね。経営者の純粋な思いから発したことで、この給料額が支給できれば、スタッフは俄然やる気になります。
では、年収の30%増を実現するための必要売上高はいくらでしょうか。
これも簡単です。
1500万円の30%アップは1950万円です。これを先の算式に当てはめます。
固定費の総額は人件費1950万円+1050万円で3000万円
(3000万円+利益150万円)÷90%=3500万円
必要売上高は3500万円です。
同時に、粗利益をアップさせたらどうでしょうか。
経営者は数社のディーラーに相見積もりを取り、変動費を4割削減、ということは粗利益率を94%にアップできたのですね。
すると、必要売上高が変わってきます。
(3000万円+利益150万円)÷94%=3351万円
3351万円が必要な売上高です。111%と2ケタアップです。先の売上高を因数分解してそれぞれの項目の目標を定めます。これも数%の改善で達成できます。
客数 × 客単価 × 来店回数
(4%アップ)(4%アップ)(0.2回増)
↓ ↓ ↓
1040人 × 6240円 × 5.2回 = 3345万円
これで目標はほぼ達成です。
客数40人アップには、既存客に紹介依頼をする程度で可能な数字ですし、客単価240円のアップは、たとえばサイドメニューのヘッドスパをワンコインでお勧めすることで達成できますし、来店回数の増加には、たとえば白髪染めのサブスクをやります。1カ月に何回来店しても定額の料金は変わらない、などを実施すればすぐに達成は可能です。リタッチカラーで来店した何回かに1回はカットもしてくれるはずで単価も上がりますね。
経営者とスタッフでは見る世界が違います。経営者は「利益」を見、スタッフは自分の「給料」を見ます。自分の給料が3割増える、しかもこれとこれとこれをやれば達成可能である、そういうふうに現場レベルの数字目標を掲げてあげれば、スタッフは喜んで取り組んでくれます。
売上減少での生き残り策
結論です。
会社の中のお金の流れがわかれば、どこに着目し、どう数字をいじれば、どうなる、ということがわかってきます。
そうすれば、決算期にキャッシュがないとあわてる必要もなく、安心して決算期を迎えることができます。
必要な利益は確保でき、またスタッフも他のラインバル店よりも多くの給料がもらえれば辞めることもありません。どころか、給料の多い店として堂々とアピールできますから人の採用難という問題はクリアできます。
また、集客も・・・・。
これも同じです。望む利益を得るために、どのくらいの売上が必要なのか、逆算して正確な根拠のある目標設定ができます。目標を実現するために、なにをどうするのかは必然的に見えてきますし、なにをどうするかの方法さえわかれば、あとは実行しながら修正を加えつつ、スタッフ個々のスキルアップをしながら目標を実現していく。さほど困難なことではありません。
コロナ禍の今、重要なのは売上ではなく利益です。なぜなら、利益こそがお店を存続させることができる原資であるからです。
まして「8割経済」「7割経済」と言われるように、もうコロナ以前の経済には戻らない。せいぜい8割、7割程度にしか売上は戻らない現実を生きています。
いや、生きていかざるを得ない。
売上縮小のなかで、いかに利益を確保していくか、もっと言えば、望む利益を確保し続けることができるのか。経営者は問われているのですね。もちろん、生き残るために。
「一般的に言うと、人間の力というものは、
明らかに利益となるような未来を得るための
今日の手段である。」
(トマス・ホッブズ)