なぜ経営計画が失敗に終わるのか
私自身お金で苦労しましたから、何度でも申し上げます。
いま経営者にとって大事な視点は、売上よりも利益だということです。
売上ほどあてにならないものはありません。よく経営計画書を作って、スタッフはもとより金融機関や取引業者といったステークホルダーの前で発表するのが一種の流行りのようですが、計画書通りに行ったという話はほとんど聞きません。
どうして計画書通りにいかないのか?
その理由は、断言します、売上から計画するからです。こういったことを顧問先の税理士が指導しているのですから、たまったものではありません。
では、計画した売上って一体いくらになるのか、その根拠はなんでしょう?
大抵は、前年対比5%アップにしようとか、10%アップだとか、その数字に根拠はありません。せいぜい、こうなったらいいな、せめてこれくらいはアップしたいという、希望的な数字でしかありません。
だから、計画通りにいかないのです。
とくに今回のようなコロナ禍で8割経済、7割経済といわれるなか、さらに第2派、第3派での急激な感染拡大の状況下では、売上なんて絵に描いた餅に過ぎなくなります。最初に想定した、希望的な売上の数字でつまずきますから、最後の利益は目も当てられないような惨状を呈してしまうのです。
利益とは経常利益のことです。つまり、「税引前利益」のことです。ここから税金が3割引かれ、残った「税引後利益」から、金融機関への借金の返済にあてるのですね。
でも‥‥借金を返済する原資がない! だから返せない!
会社は借金では潰れません、借金返済を含め支払うべきお金が支払えなくなって潰れるのです。
まさか潰すわけにはいきません。では、どうするのか?
経営者が会社にお金を貸し付けるのです。あるいは、金融機関にリスケ、つまり支払い条件の緩和(リスケジュール)をお願いに行くのです。
だいたいTKC(全国横断の会計事務所組織)による美容室の経営数字の平均値を見てください。儲かっているお店でせいぜい経常利益率は売上高の5%程度ですから、こういう売上減少の今に至っては、ほとんどが赤字転落、あるいは借金が返せない状態を迎えます。断言していい。
さらに、緊急融資など受けていればなおのこと、返済資金枯渇で倒産まっしぐらになります。
これも断言していい。
会社の中のお金の流れを知ること
そうではないのです。
まずは、会社(お店)の中のお金の流れを知ること。
いくら貸借対照表や損益計算書などの決算書が読めても意味がありません。そこには、どうすべきか、の着眼点も対策のヒントもない、ただの数字の羅列があるだけです。
意味があるのは、会社の中のお金の流れを知ることなのです。だから税理士はすでに“お役御免”なのです。
お金の流れを知らなければ、だいたいいくらの利益を上げれば、会社は最低限、存続できるのか、これが把握できません。把握できなければ、幸運に頼るしか会社は存続できません。まったくの運任せ、ドンブリです。
税金を取られて、なおかつ借金が返済できて、しかも次年度以降への設備投資資金や繰越金のプールまで含めて、“希望とする利益”はいくらが相応しいのか。
この希望する利益はいくらなのかを知ることが先決なのです。
次に、固定費に目を向けます。固定費は、多くを占める人件費と、家賃や広告宣伝費などのその他の固定費に分けられます。これらの経費の割合は健全なのか。削減できる経費はないか。そんな経費の見直しをするのです。
その次に、変動費です。変動費とは、材料費や店販品の仕入代金などのこと(業務委託をしている場合は業務委託費がここに入ります)です。これを少しでも削減できないか。たった1%の材料費削減でも、5%の利益計上しているお店なら6%と10%もアップするのです。
こういうことも、お金の流れを知ると、当然のようにわかってきます。
つまり、目の付けどころがピンポイントで狂いはなく、打つべき対策・対応も適切であるということです。
そして、最後にいよいよ売上となります。
いったいいくらの売上があればいいのか? お店は存続できるのか?
すぐにできる数字の算出
ではやってみましょう。ベースとなる数字を以下に掲げます。
この数字は、前出TKCの速報値から、理解をしやすくするために、ざっくりとキリの良い数字に改めています。売上を100として、それぞれの割合を%で見ていきます。
・売上・・・・・・・・・・・100
・粗利益・・・・・・・・・・90
(粗利益率90%)
・固定費・・・・・・・・・・85
うち人件費・・・・・・・50
(労働分配率55%)
うち、その他の固定費・・35
・利益・・・・・・・・・・・5
(※労働分配率=人件費÷粗利益)
さて、利益5%では借金返済の原資が不足する。設備投資資金や繰越金も含めて倍の10%の利益は確保したい。今のところは、人件費やその他の固定費に目を向ける余裕はないので、そのままで、一体いくらの売上を上げたらいいのだろうか? まさか、売上も倍になるわけないですよね。
計算ですぐ出ます。
利益10+固定費85=95
95÷粗利益率90=105
つまり、必要売上は5%のアップでいいのです。利益を2倍にするには売上はたった5%のアップで足りる。そんなことが明確にわかるのですね。
では、もっとやってみましょう。
利益は2倍を確保したい。固定費、なかでも広告宣伝費を削減したい、さらに家賃交渉で家賃も削減したい。それでその他の固定費はトータルで35から30になった。この場合の必要売上は?
利益10+固定費80(人件費50+その他の固定費30)=90
90÷粗利益率90=1
つまり、売上は現状維持でも、固定費を5%(その他の固定費5%)を削減することによって利益の2倍増は可能なのです。
もっとやってみましょう。普段からがんばっているスタッフに人件費を20%アップしてあげたい。ただし経営の安全のために労働分配率の割合は変えない。その場合の必要売上高は?
いや、利益はとりあえずこのままでいいから、スタッフには20%といわず30%を給料として増額したい。そうすれば、どんなライバル店よりも給料の額で勝てる。勝てれば人材の採用に苦労することはない。その場合の必要売上高は?
こうやってどんどん必要な数字が説得力を持って算出できます。対前年比などという根拠のない願望の数字ではないのです。
逆算の思考法
売上から見るのではなく、最終的な利益から見る。必要な利益はいくらなのかを見る。これを「逆算の思考法」と勝手に私は名付けています。
逆算で思考するから、目の付けどころに狂いはありません。また、目の付けどころから、改善するところが見つかれば、どうやって改善していくかを戦略として打ち立て、戦術として行動に落とし込めばいいのです。
当然、打ち出す戦略も戦術も狂いが生じることはまずありません。いえ、あり得ません。
たとえば、スタッフに給料を30%増額すると約束した。そのための必要売上高が算出できた。それでは、その売上を実現するためには、月ごと、週ごと、日ごと、何人のお客様を担当すればいい? 売上はいくら上げればいい? あと目標までもうちょっと、ではサイドメニューをお勧めしよう。といったように、日々の行動に具体的に数字で落とし込めるのです。
それでもスタッフからは不満が出ません。なぜなら、自分たちの給料アップのための必要な行動だからです。積極的に行動します。
ただ、がんばれ、では人は動きません。がんばる根拠を示し、それが自分たちに返ってくるという約束とメリットがなかったら、がんばれないのです。
だから、売上から始まる経営計画と違って、会社の中のお金の流れを把握して、望む利益から逆算していって、最後に必要売上を算出する。逆算の思考法こそ実現の可能性が飛躍的に高まるのです。
しつこいですか? でも、とても重要なことです。お店を潰さないために。お金の流れを知ることが経営の出発点であり、重要な意思決定のベースともなるのです。
まだまだこの逆算の思考法は応用可能で奥が深いのです。機会があれば今後発言していこうと思っています。ご期待ください。
それまで待てないという方、私宛のメールアドレスまでダイレクトにメッセージください。具体的な経営の数字を教えていただければ、より確信的なアドバイスができます。
利益は目的や動機ではない。
事業を継続・発展させる明日のためのコストである。
(ドラッカー)