広告宣伝費の費用対効果測定
たとえば広告宣伝費に10万円かけたとします。
結果、売上が10万円アップしたとして、元が取れたと判断するのは、まったく財務がわからない人です。
また、広告効果の評価指標は、ROIやROAS、CPAなんていうのがありますが、額面通りに見て、効果があった、なかったと判断するのは、マーケティングに無知か無頓着な人です。
原理原則をないがしろにしていると、経営判断が狂いっぱなしでとても危険です。
【経営の原理原則】その34
「広告宣伝費の費用対効果はすぐに判断してはいけない」
さて、こんな質問があります。
広告宣伝費に20万円使った。いくら売上げれば元が取れるかという質問です。
20万円使ったということは固定費が20万円増えるということです。
たとえば売上100万円で粗利益率90%のお店があったとしましょう。
固定費が20万円アップしたということは、求める売上高はこのようになります。
固定費増加20万円÷粗利益率90%=22万2222円
100万円+22万円=122万円
122万円の売上が最低限必要で、これで元が取れたという計算になります。
ところが、この計算には“大いなる勘違い”があります。
それは、時間経過(タイミング)とリピーターの数を計算に入れていないからです。
広告宣伝費の費用対効果を見る指標として「ROAS」があります。
たとえば20万円の広告費を使って50万円の売上を得られたとすると
50万円÷20万円×100%=250%(ROAS)
このように、250%の効果があったと判断できます。
さまざまな媒体の効果をこうやって測定していくわけですね。どんな媒体が一番高い効果があったのか、次回からは効果があった媒体に絞って、絞った媒体にコストを集中して宣伝してみよう、といったような判断になります。
しかし、話はここで終わりません。
だいたい3カ月に1回の来店サイクルだとすると、顧客予備軍(潜在客)があなたのお店の広告に目を触れて気に入ってくれたとても、まだ髪を切るまでに期間がある場合は、すぐには来店しません。満腹の人にいくら美味しそうなレストランの広告を見せても効果がないのと同じです。
幸運にも、あなたのお店の宣伝が気に入って1カ月後、2カ月後に来店する可能性だってあるのです。
タイミングとLTVの視点
そしてもうひとつ。
今回の広告で来店したお客様のうち、半分のお客様はリピートする可能性があると仮定できますよね。
さらにリピートした人の何割かさらに次も再来してくれる可能性もあります。さらに、さらに、再々来店で4回くらい継続来店してくれて固定客になっていただけるお客様も存在します。
もっと可能性を広げてみます。
一生のお客様になってくださる可能性もあるのですね。
さて、ROASによって瞬間的な効果測定はできます。
ところが、時間経過のタイミング、リピート率、固定客率、生涯顧客率(LTV)を考慮に入れていません。
ですから、1回の広告宣伝で効果はなかった、元が取れなかったとすぐに判断しないで、長いスパンで考えることをお勧めしたいのですね。むしろ、ここまでしないと正確な効果測定はできないわけです。
仮定の話ですが、シミュレーションしてみましょう。(ここでは話がややこしくなりますので、あなたの広告に反応してすぐ来店した人に限っての話とします)
広告宣伝で35人の新規を集客できた。単価は7000円とすると24万5000円(A)の売上となった。
広告宣言費は20万円だから
24万5000円÷20万円×100=122%
ROASは122%だった。
このうち18人がリピートしてくれた。単価は同じく7000円として18人だから12万6000円(B)。
そして3回目来店がまた50%の9人、単価は変わらないとします。
9人×7000円=6万3000円(C)
このうち3人の方が固定客になってくれたとします。このお客様の生涯価値は、今後一律で30年通ってきてくれて、来店周期が3カ月に1回で年4回、単価も固定で7000円とします。すると、
3人×30年×4回×7000円=252万円(D)
本当の広告効果は以下のようになります。
(A)24万5000円+(B)12万6000円+(C)6万3000円+(D)252万円=295万4000円
たった20万円の広告宣伝費をかけただけで、295万4000円の売上効果があったということです。
ちなみに前出のROASで求めると、1477%の効果というとんでもない数値を叩き出します。
あまりにも杓子定規な試算で信憑性に欠けるかもしれませんが、あくまでも広告宣伝をするということは、お客様と今後長い間にわたってお付き合いするための関係性を構築する第一歩ととらえることなのです。
ですから、経営者の考え方は、1回の来店でいかにお客様との関係性を築くか。ここに力点を置いてほしいのですね。
だってそうですよね、人口減少時代、たった1回でも来店していただいた「ご縁」を大切にしてほしい、ご縁を大切にできないお店は市場から撤退するのみだからです。
以上、広告宣伝の費用対効果をすぐに判断するのは危険だというお話でした。
「いまだに販売(セールス)とマーケティングを混同している経営者がいるのには驚かされます。マーケティングとは、製品やサービスに意味を与える仕事です。製造部門がつくった製品に、意味を与えて世の中に送り出すのがマーケティングの役割なのです。」(フィリップ・コトラー)
とくに見送りの徹底
【経営の原理原則】その35
「出迎え三歩に見送り七歩」
今回は、いまさら申し上げるまでもなく、サービス業としての基本中の基本、原理原則のお話です。
「出迎え三歩に見送り七歩」
生身の人間を相手にするビジネスの基本姿勢であり、とくに理美容などダイレクトに人に触れ合う対人サービス業にはピタリを当てはまります。
仕事に欠かせないのが礼儀、マナーといったものです。礼儀、マナーができていないと最悪の結果をもたらします。
“こんな店、二度と来るか”
と失客に。あるいは、もっと過激に
“責任者出せ!”
なんてクレームに発展することにもなりかねませんよね。
「出迎え三歩に見送り七歩」は、お客様を迎え入れ見送る基本中の基本の礼儀であり、マナーです。
ところが、出迎えに気を使ってくれるところはあっても、帰る段になると、新しいお客を迎えることに目が向いたり、あるいは他のお客に対応したりで、そっけない対応をされることが多いですね。忙しいのは理解できますが、じつに寂しくなります。
最新のマーケティング関連の調査結果では、「顧客を失う場合のほぼ70%が、販売後になんの働きかけもしなかったため」だということです。
さらに、こちらは理容室の例ですが、全国300店舗の加盟店を誇るライオンヘアサロングループが継続的に行っている百万人に及ぶ顧客調査の結果も、「失客の最大原因は顧客に対する無関心」だという結論が出ています。
それだけ、出迎えた後の、お見送りも含めた対応が大事だということですね。
出迎え三歩、見送り七歩とはいっても、物理的に三歩、七歩というわけではありません(笑)
できれば、来店客の姿を目視できた時点で事前にお店のドアを開けてお迎えする、角を曲がってお客様の姿が見えなくなるまでお見送りする。そういう姿勢が望ましいと思うのですね。
これは、まず形から入ることです。マニュアルにしっかりと定めておき、何度もロープレをして実践してみることです。
私自身、多くのサロンを訪問させていただいて、私の姿が見えなくなるまでお見送りをいただいた経験は多くありますが、訪問した実際のサロンの数からしたら、とても少ないように思います。
本当に「出迎え三歩に見送り七歩」を経営者自らが実践してスタッフのみなさんに範を垂れているところが少なく、ちょっとがっかりしますね。
(そして、お見送りの際にお声掛けする「魔法の言葉」があります。でも、またの機会にお預けとさせてください)
受けるほうの立場からすれば、出迎えよりも、そういう見送りのときのシーンのほうが、余韻を残し、残像のようにいつまでも目に焼き付いていて消えることはないですね。
なぜなら、「今日あなた様に出逢えた幸せを感謝いたします。どうかお幸せにお過ごしください」という、まさに一期一会の出会いであり、別れであるから、それだけ印象深く、記憶に深く刻まれるからでしょう。
「孔子の曰わく、命(めい)を知らざれば、以(もっ)て君子たること無きなり。礼(れい)を知らざれば、以て立つこと無きなり。言(げん)を知らざれば、以て人を知ること無きなり。」
『論語』の言葉です。
▷孔子先生が言われた、「天命がわからないようでは君子とは言えない。礼儀がわからないようでは安定してやっていけない。言葉がわからないようでは人を知ることができない。」
どんなに忙しくても、お見送りは七歩の姿勢で「礼」を尽くすこと。でなければ、経営は安定するものではありません。
売上を構成する3つの要素
【経営の原理原則】その36
「売上は客数×客単価×来店回数で成り立つ」
売上を構成する要素を分解してみます。
すると、「客数」「客単価」「来店回数」の「3つの要素」に分解され、しかも3つの要素の掛け算によって売上は成り立つことがわかります。
とても重要なことです。
たとえば客数ばかりに注力して料金ダンピング、つまり単価減に踏み切って集客したとします。確かに客数は増えるかもしれませんが、単価は下がります。
そして、来店回数はどうなるのか? むしろ料金の安さに惹かれてやって来たお客様は、それよりも料金的に安い他店が見つかれば、そちらに流出してしまう可能性は大でしょう。
極端な話、年に1回ないし2回の来店で終わってしまうかもしれません。
すると、客数の歩留まりがなくなりますから新規客に頼らざるを得ず、新規客集客のための広告宣伝費が増大する一方となり、途端に負のスパイラルに落ち込みます。
こうなると、結局は望む売上は得られなくなります。(料金のダンピングはその他さまざまな弊害をもたらしますが、ここではこれ以上ふれません)
大事なことですので、繰り返します。
●売上=客数×客単価×来店回数
目標利益と必要売上高の求め方
では、粗利益が90%、固定費が85%、利益(経常利益)が5%のA店があったとします。
安全性を確保するために、利益をなんとしてでも倍の10%にしたいとA店の経営者は考えました。
この場合、A店の必要売上高はどうなるでしょうか?
やはり売上も倍は必要でしょうか?
必要売上高はこのように求めます。
●必要売上高=(目標利益+固定費)÷粗利益
目標利益10+固定費85=95
95÷粗利益90=105(必要売上高)
必要売上高は5%アップの105です。けっして2倍の売上ではありません(笑)
これを実際の数字に当てはめてみましょう。
A店の売上は3000万円で、客数1000人、客単価6000円、来店回数5回とします。
客数1000人×客単価6000円×来店回数5回=3000万円
目標売上高は5%アップで3150万円です。
目標売上を実現するための方法は、こうです。
・客数・客単価をそれぞれ“たったの”2%アップします。
・来店回数を“たったの”0.1回増やします。
すると、客数1020人×客単価6120円×5.1回=3183万円
5%アップの目標売上は達成されたわけですね。(図参照)
売上を構成する要素を3つに分解して、なおかつ目標利益を実現するための必要売上を算出する。3つの要素に分解したそれぞれの目標値を定める。あくまでも3つの要素の数値目標を実現するために、バラバラではなく同時に着手すること。どうやってやるか、その目標値達成のための戦略/戦術を立てれば、ぐっと実現は可能であるとわかってきます。
実現可能な数値なら、根拠もなくがんばれとハッパをかけるのではなく、数字を使って説明すれば、スタッフにもわかりやすいですよね。しかも、わずかにアップした目標数字ですから、スタッフもがんばれば実現できると意欲もわきます。(事実、私のクライアントさんの店長クラスに以上の説明をすると、みなさん目からウロコのようで俄然がんばります。そして具体的な行動計画も自発的に発案され、PDCAサイクルを回しながら目標売上を、ひとつの例外なく実現されます)
ぜひ、目指す利益はどれくらいなのか。
そしてその利益を実現する必要売上はどれくらいなのか。
必要売上を実現するための3つの要素それぞれの目標設定値を求め、具体的な実行計画に落とし込んでください。今すぐに。
もし、実行計画をどのように策定していいかわからないという方はご一報ください。
「ビジネスを大きくする方法は、たった3つしかありません。
・クライアントの数を増やす(顧客数増加)
・クライアントあたりの取引数を増やす(平均購入額増加)
・クライアントの購買の頻度を増やす(平均購入回数増加)
このことだけにポイントを絞ればいいのです。
私はこの3つのポイントに対して、異業種からの手法を応用してクライアントを成功させてきました。」
(ジェイ・エイブラハム)