理美容2020年の市場規模
矢野経済研究所の「理美容市場規模推移と予測」データを紹介します。
だいたい業界で発表される統計データほど当てにならないものはありません。たとえば厚労省で発表される全国の店舗数ですが、かさ上げされた数字のままで、実態を反映していません。なぜなら廃業届がカウントされていないからです。廃業届は厚労省(保健所)に届け出ずに税務署に届けます。それが現状。
ただ数少ない信頼性の高いものとして、この矢野経済研究所の調査は評価できます。
その「理美容市場規模の推移と予測:2019年度」を振り返ってみます。2019年度の市場規模、つまり理容室と美容室とで一昨年の2019年度はどれだけ売上げたのかというデータです。
過去5年間で500億円の市場が消滅
結論から申し上げれば、2019年度の理美容市場は、売上高ベースで2兆1253億円、前年対比で99.4%でした。0.6%の減少ということは、129億円の売上減少という大幅な落ち込みとなったということです。
美容業は81億円の売上減で99.5%、理容業は48億円の売上減で99.2%です。
ちなみに過去5年間の売上高推移を見てみましょう。※( )内は前年との増減。
・2019年度:2兆1253億円(-129億円)
・2018年度:2兆1382億円(-92億円)
・2017年度:2兆1474億円(-101億円)
・2016年度:2兆1575億円(-83億円)
・2015年度:2兆1658億円(-97億円)
なんと、502億円が過去の5年間で失われた理美容室の売上高です。
この失われた理美容室の売上がそっくりそのまま集客のポータルサイトに奪われてしまったという見方もできます。アホらしい限りですが。
(もちろん実質値下げのクーポン乱発で客単価減に見舞われ、売上を減少させていったというのが真っ当な分析ですが。)
そして、2019年度は、年末の消費税増税がありましたが、明らかにその影響は見て取れます。それで129億円の減。
数字だけ述べても実感がわかないかもしれませんが、129億円の減少ということは、年間売上高1000万円クラスのお店が1290店舗消えてなくなったということです。500億円なら5000店舗がこの5年間で市場撤退してしまったに等しいのですね。
予想を超えた結果
同調査レポートは2020年の売上予測を2兆1052億円として2019年度より200億円の売上減と予測を立てていましたが、はたしてどうだったでしょうか。私はブログで予測は甘いと書きました。ひょっとすると、2兆円の大台を割るかもしれないと予想しました。(2019年の理美容室の売上高は129億円の大幅減少)
フタを開けてみると――、本当にその通りになってしまいました。
さてこの度、2020年度の理美容の市場規模が発表になったのです。
なんと、とうとう2兆円の大台を割り込んで1兆9700億円となってしまったのです。しかも前回の同調査で予測したのは200億円の減少でしたが、それを8倍近くも悪化して1553億円の減少に見舞われてしまったのですね。
この2020年度を加えれば、過去6年間で502億円+1553億円=2055億円もの市場が失われてしまったのです。年間売上高1000万円クラスの店が2万店舗も消えてしまったことに等しいのです。
しかしながら同レポートでは、今後の見通しとして、「新型コロナウイルス感染症の影響に関しては、2020年よりは若干でも改善することを前提とし、Withコロナ時代に即したサロン経営が定着すると見られることから、2021年度の理美容市場規模は、事業者売上高ベースで2兆1,052億円(前年度比106.9%)、このうち理容市場が6,232億円(同105.8%)、美容市場が1兆4,820億円(同107.3%)になると予測する。」としています。
つまり売上は2兆円の大台を回復するということです。
一気に加速する廃業への動き
しかし、私はそんな楽観論には立ちません。
ここでモノを言うのは「編集者の眼」です。表面的な現象を結び付けて背後にひそむ構造を分析するという、職業的習い性である編集者の眼から推測するのですね。(と言っても、すべての編集者がそういう眼を持ち合わせているのではなく、名誉のために申し上げたいのですが、ごく一部です)
同レポートでも言っていますが、国内理美容市場は、少子高齢化の進行と出生率低下などによる人口減少で、市場規模は縮小が続く見通しである、という大きなトレンドが前提としてあるということ。
しかし、そればかりではないのです。
以上の大きなトレンドと同時に、経営者の高齢化(60歳代以上が過半数)、後継者の不在(後継者なしが8割)という内部環境要因が加わります。さらに、コロナ禍の売上減少という急激な外部環境要因の変化が重なるのです。
結果、経営者マインドは極端に落ち込み、今後は一気に廃業、あるいはM&Aという選択肢が増えてくる。
そういうふうに編集者の眼が語りかけてくるのです。
「死ぬのは決まっているのだから、朗らかにやっていこう。時間は限られているのだから、チャンスは今だ。」(ニーチェ)