5つある利益
【経営の原理原則】その42
「5つの利益と営業利益の重要性」
決算書の損益計算書(P/L)には5つの利益が記されています。
・売上総利益(粗利益)
・営業利益
・経常利益
・税引前利益
・税引後利益
どれも重要な項目です。内容をきちんと把握できていなければなりません。この5つの利益のそれぞれをしっかり把握することが原理原則というわけですが、今回はこれの発展形で。
あえてこの5つの利益のなかで最重要な利益とはなんですか?と問われたら、あなたはなんと答えますか。
銀行に印象を良く見せるのは経常利益だから、経常利益が最も重要と答える人もいるでしょう。
いや、税金をできるだけ少なくしたいので、税引前利益とお答えになるでしょうか。
ここ数年、会社の業績評価として一番の重要な項目は「営業利益」なのですね。
確かに従来は「経常利益最強論」がまかり通っていましたが、さまざまな弊害が露呈したようです。
営業利益はそこそこにして、雑収入にたとえば保険の解約金などを突っ込んで経常利益を膨らませるなんてやりかたが、まったく評価されなくなったのですね。
その企業の本当の実力、つまり1年間、いかに本業で稼ぎ出したのかがモノを言う、そんな評価になったのです。
お気をつけください。今後の決算書の作り替えのご参考までに。
確実な未来予測
【経営の原理原則】その43
「人口構造の変化はすでに起こった未来」
ドラッカーがその著『イノベーションと企業家精神』のなかで、「イノベーションのための7つの機会」としてその5番目に挙げているのが、「人口構造の変化」なのです。
ドラッカーは「人口構造の変化ほど明白なものはない」として、少し長いですが、そのまま引用します。
「アメリカの10代の女性は安い靴をたくさん買う。基準となるのは、耐久性ではなくファッション性である。この同じ女性が10年後にはあまり靴を買わなくなる。17歳ごろの2割程度に減る。ファッション性は重要ではなくなり、履き心地や耐久性が基準になる。
先進国では、60代、70代の退職後間もない人たちが、旅行や保養の市場において中心的な世代となる。ところが10年後には、この同じ人たちが高齢者コミュニティの客となる。
共働き夫婦には金はあるが時間がない。彼らはそのような人間として消費する。また、若いときに高等教育、特に高度の技術教育を受けた人たちは、卒業の10年後20年後には、高度の再教育コースの受講者になる。
欧米や日本などの先進国はオートメ化せざるを得ない。少子化と教育水準の向上という人口構造の変化だけを見ても、先進国の製造業における伝統的なブルーカラーの雇用が減少することはほぼ間違いない。」
このように人口構造の変化は「すでに起こった未来」なのですね。近未来がどうなるかは容易に、しかも精度が高く予測できることなのです。
ところが現実には違うとドラッカーは言います。
「このような人口構造の変化が、企業家にとって実りあるイノベーションの機会となるのは、ひとえに既存の企業や公的機関の多くが、それを無視してくれるからである。彼らが、人口構造の変化は起こらないもの、あるいは急速には起こらないものであるとの仮定にしがみついているからである。まったくのところ、彼らは人口構造の変化を示す明らかな証拠さえ認めようとしない。」
本当にその通りですね。人口構造の変化を無視した政治や行政のせいで、年金をお年寄りに大盤振る舞い。豪華な保養所の建設に湯水のごとくお金を使いました。そして結果は、積み立てた年金の枯渇、高齢者と若者の年金受給の不公平を生み出し、年金そのものも破たんに瀕しています。
業界に限って見てみても、加速化する少子化の流れを無視して美容学校の設立ラッシュをした結果、定員割れが続出しています。一方では、人口減少は着実に進展しているにもかかわらず、美容室の新規乱立で顧客数を獲得できず、おまけに圧倒的な売り手市場になった美容師採用が困難を極めています。
すでに日本人の平均年齢は49歳です。世界一の高齢です。これもすでに起こった未来でわかっていたことです。顧客の半分を占める49歳以上の女性を対象に、49歳以上の特有の「お悩み」解決に向けて解決策を提示する、そんな選ばれる美容室づくりをやって来ましたか?
このように、人口構造の変化は近未来予測としては、すでに起こった未来のように確実に把握できるものです。気づいたときには変化に翻弄されるという受動的な姿勢では取り残されます。お店の存続そのものが危うくなります。
もうひとつ、コロナ禍によってますます進む分断化、非人間化、孤独化、デジタル化のなかで、あなたはどこに目を向け、どうやってビジネスを発展させていけばいいとお考えですか?
長く存続する誓い
【経営の原理原則】その44
「企業はゴーイングコンサーン」
ゴーイングコンサーン(Going Concern)は「継続企業の前提」とも呼ばれ、企業が将来にわたり存続し、事業を継続していくという前提のことを言います。
財務諸表を作成するうえにおいての前提条件でもあり、株式が公開されている企業には、企業存続の前提に重要な疑義をいだかせる事象や状況が発生すれば、しっかりとその旨を「重要事象」として明記しておかなければなりません。田谷さんの場合は、残念ながらこの重要事象が明記されたままの状態です。
つまり、会社を立ち上げた限りは、企業を永遠に存続させます、という誓いの言葉がこのゴーイングコンサーンです。結婚式で結ばれた男女が、この愛を永遠に誓いますと宣誓するのと一緒です。
一度会社を創った限りは永遠に存続させたい。創業経営者なら誰でも思うことです。
しかし現実には、企業存続30年説、短い場合は10年説と言われるように企業の寿命は短いですね。
東京商工リサーチの調査によると、2020年に倒産した企業の平均寿命は23.3年だそうです。
また帝国データバンクの発表によると、100年継続する企業はたった2%だそうです。
だいたい、ゴーイングコンサーンを誓っても、志半ばで、刀折れ矢尽きて20年程度で倒産していくというのが実態のようです。
倒産の原因は、ほとんどが「販売不振」です。販売不振を引き起こした要因として、過当競争、消費税増税や今回のコロナ禍のように外部環境の変化と、後継者不在も含めたマンパワー不足といった内部要因があげられます。
と、外野席でああだこうだと訳知り顔で言っていても始まりません。
もう一度、ここで原点に立ち帰って、5年後、10年後の事業をどうしたいのか。自社が存続する社会的な意義と存在理由はなんなのか。それらのミッションとビジョンに立ち帰っていただきたいのです。
なるほど、自社と自社の事業がなければ地域社会にとっての大きな損失だ、もっともっと社会に貢献して、5年後はこうなってみせる、10年後はこうだ!
そんなミッションとビジョンの再確認をして、腹の底にズシリと収めていただきたい。
そして、さぁ、明日から具体的に何をやるのか、スタッフとともに目標設定して行動へと落とし込んでいってほしいのです。
そう、ゴーイングコンサーンをめざして。
デジタルの次に来るもの
【経営の原理原則】その45
「アナログな人間関係の深化」
気の利いた経営手法でもありません。最新のマーケティングテクニックでもありません。
規模の大小も、資本力の強弱も、まったく関係ありません。
最終的にモノを言うのは「人間力」です。
デジタルではなく、アナログの人間くささです。
デジタル化が進展し、このコロナ禍での非接触化、リモート化に象徴されるように、人間対人間のダイレクトな交感がどんどん希薄化してくると、逆に人間同士の触れ合いがとても貴重になってきます。
近未来予測において、信頼すべき哲学者や思想家がおしなべて強調しているのが、アナログな人間関係の復活です。
なかでも、いま世界で最も注目されている新進気鋭の哲学者であるマルクス・ガブリエルはアフターコロナの世界において、大変興味深いことを言っています。
●グローバル化が民主主義の危機を引き起こしたとして、ローカルでしかもバーチャルな形ではない協力体制の構築が真の民主主義を生み出す。
●デジタル革命の後には、お互いがそばにいてリアルな関係性を構築するアナログ革命が起こる。
●「善」のビジョンを掲げた、道徳を中心にした新しい啓蒙主義の哲学が必要になる。
というようにアフターコロナ後の世界の在り様を述べています。なにもアフターコロナ後だからと先送りしていいわけではありません。おそらくすぐに来るであろうアフターコロナにそなえて、今から準備しておくのが賢明です。
マルクス・ガブリエルは哲学者らしく、難しい言葉で述べていますが、理美容業界流に翻訳して記せば、このようなことになるのです。
結論から申し上げれば、これは理美容業の豊かな未来を語っていることに等しいのですね。
なぜなら、デジタル後のアナログなコミュニケーションによって、ズタズタに引き裂かれてしまったかもしれない人間関係を真に豊かなものにしてくれる。ということは、民主主義の復活を意味しているということです。その担い手が理美容室だと解釈できるわけです。
しかもローカルな協力体制において、です。ローカルもローカル、地域密着の業態特性から言って、理美容業のことにほかならないのです。
さらに「善」のビジョンを掲げた新しい啓蒙主義を実践しているのは理美容業であり、まさにズダズダに引き裂かれてしまった、一人ひとり「個」の顧客を大事にして、‟そのまま・あるがまま“を受け入れ、尊厳と人間性回復を担う最前線に位置する理美容業の豊かな可能性を予測していることになりますよね。
デジタルでは決して得られないアナログによる人間関係の深さと可能性。
この可能性を徹底深化・発展させようじゃありませんか!
おまけの番外編
【経営の原理原則】番外編
「墓碑銘になんと刻むか?」
【経営の原理原則】シリーズは45回で終了といたします。
さらにその番外編として、どうしてもお話しておきたかったのがこのテーマです。
「墓碑銘に刻む言葉」――。
個人の人生の集大成となる言葉。自分が生きた証となる言葉。人生一回限り、この言葉に1ミリの嘘もないというぎりぎりの言葉。
この言葉通りに生きることを、その人のかけがえのない、価値ある人生というのでしょうね。
つまり、墓碑銘に刻む言葉をいったん決めてしまえば、その決めた通りの人生を歩むという、真っ直ぐに背骨の通った生き方ができるわけです。
先人の墓碑銘を見てみましょう。
「生きた、書いた、恋した」
(スタンダール:世界的な小説家。まさに『恋愛論』『赤と黒』の名作を生んだ人に相応しい言葉ですね)
「科学への献身を通じ、人類のために生き、人類のために死せり」
(野口英世:一生を科学に殉じた生き様の言葉です)
「己より賢明なる人物を身近に集める術を修めし者ここに眠る」
(カーネギー:鉄鋼王としてその事業の成功には多くの才能豊かな人材を身近に置いていました。そして才能が豊かなだけに組織がバラバラになりかねないのを、見事にマネジメントによって統制したのがカーネギーです)
そして、日本人には墓碑銘よりもなじみの深い辞世の句、あるいは辞世の言葉。
「昨日の発句は今日の辞世、今日の発句は明日の辞世。
我、生涯に言い棄てし句々、一句とて辞世ならざるはなし。」
(松尾芭蕉)
―さすが俳聖といわれた芭蕉の言葉です。死に際に臨んで弟子から辞世の句を望まれたときに語った言葉です。「昨日の発句は今日の辞世の句、今日の発句は明日の辞世の句。私は生涯、辞世の句との覚悟で発句しなかったことは一句たりともなかった」と。凄い言葉です。
「天が私にあと十年の時を、いや五年の命を与えてくれるのなら、本当の絵描きになってみせるものを。」
(葛飾北斎)
―あの富嶽三十六景で世界的に知られる北斎。まだまだ描き足らない、本当の絵描きになっていない。いま死んだとしたら画家として大成がならないと思い込んだその執念。凄まじいものがあります。
あなたはどんな墓碑銘の言葉を刻みたいですか?
刻むべき文字に相応しい人生の終章が訪れる時=死から逆算していって、さて、今の生き様はどうなのでしょう? 墓碑銘通りの人生を送っていますか?
【経営の原理原則】シリーズは45回と番外編をもって、今回で一応終了とさせていただきます。まだまだ書き足りないことがあります。重要なことには変わりない原理原則はあと30回分はネタとしてあります。
結構気合を入れて書きました。でも、この辺でやめておきます。このような原理原則は頭で理解したとしても、実践で活かさなければ何の成果も生まないからです。数多くご紹介すればするほど、実践で落とし込むのはわずらわしさを感じてしまうでしょう。できれば言い出しっぺの私が伴走者となって一緒に走っていければいいのでしょうが、それも許されません。
一緒に走ってみたいと思われる方は、このたび勉強会を立ち上げましたのでこちらにご参加ください。「オンライン経営勉強会[未来創造]」といいます。
何もかもが変化が急で、また変化の揺れ幅が大きすぎます。
だからといって目先の、一見効果がすぐにでも出るようなテクニックやハウツーに飛びついてはいけません。こういうときこそ原点に、そう、原理原則に立ち帰ってみることの重要性をこのシリーズで訴えてみたのです。長い間お読みいただき大変ありがとうございました。
「一本のろうそくは何千本ものろうそくに火を灯すことができる。幸福もわかちあうことで減ることはない。」
(ブッダ)