感染源は言葉
世が世です。カミュの『ペスト』が売れているようですね。
しかしペストの主題は病原菌ではありません。
「言葉」・・その感染力はすさまじい。
言葉こそ病原菌以上の感染源であると著者はいうわけです。
「ペンは剣よりも強し」
「はじめに言葉ありき」
「言葉は言霊」
・・・・・・・・・
ということで、人を生かしもし殺しもする圧倒的な力を持っている「言葉」。
ネットやSNSなどツールはどんどん進化し多様化していますが、そんなときこそ「言葉」で圧倒的に差をつける。言葉にまさるものはありません。
そんなパワーのある言葉を世の中は求めています。
言葉を使いこなして“お客様のこころをわしづかみ”
広告コピーとして、「おおいに」「応用」して「みよう」(と今回のテーマである「韻を踏む」を実行しています)ではありませんか。
テクニック「韻を踏む」
記念すべき今回は第1話として「韻を踏む」。
(以後、何回かにわたってコピーライティング講座を開講していきます。)
同じ言葉や、同じ母音や母音を持つ言葉をくりかえし使うことによって、独得のリズム感が生まれ、いったん目にする(というより耳にする)と、頭にこびりついて離れません。
そんな魔法のような、言葉のテクニックが「韻を踏む」です。
まず例を挙げます。
トントントントン ヒノノニトン(CM)
ソーリー ソーリー ヒゲソーリー
アイアムソーリー ヒゲソーリー
ウワサの床屋 裏ドーリー
(別バージョン)
アイアムソーリー ヒゲソーリー
マスク配るの 安倍ソーリー
・・どうですか、一度目にしたら(いや、耳にしたら)忘れられないですよね。
ダジャレ感が過ぎるというのであれば、ちょっと格調高く文学的にもやってみましょう。
格調高く韻を踏む
「人間が人間として生きている
ブドウがブドウの木であるように」
「ゆりかもめゆるゆる走る週末を
漂っているただ酔っている」
(以上、俵万智)
独得の言語観とリズムが押し寄せてきて、快感に震えます。
こういうのもあります。
「かくすればかくなるものと知りながら
やむにやまれぬ大和魂」
(吉田松陰)
これだけ何度も韻を踏んだ表現であるだけに、作者の想いが倍増して重く圧しかかります。作者の覚悟に圧し潰されてしまいそうです。
そういえば冒頭にあげたカミュの別の小説『異邦人』では、主人公の名はムルソーMeursault。「死ぬ」meursと「太陽」soleilを組み合わせた韻を踏むというネタばらしがあります。
広告コピーへ応用する
さて、本題はここからです。
そんな強烈な効果のある「韻を踏む」コピーを考えてみましょう!
「トレンドにあなたらしさをブレンド」
―「トレンド」と「ブレンド」で韻を踏んでいます。
「個性ひきたつヘアスタイルで、あなたのライフスタイルきわだつ」
―「ヘアスタイル」と「ライフスタイル」に加えて「ひきたつ」と「きわだつ」も欲張って使用。
お使いになるのは自由です。お店の個性に合わせてアレンジしてみてください。
ただ、無意味なダジャレはかえって薄っぺらに思われてしまいます。
また、せっかくのリズム感が失われてもいけません。
要注意です!
やはりプロの手を借りたい。そう思われる方は私宛メールください。
下に掲げたのは天才詩人と言われた中原中也の詩です。いったいいくつの言葉が韻を踏んで使用されているか、見つけてください。
これだけ韻を踏む表現にふれていると、どんどん人や物や音が増殖・増幅するイメージで圧倒され、強く印象に残ります。
「あゝ十二時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ
ぞろぞろぞろぞろ出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
月給取の午休み、ぶらりぶらりと手を振って
あとからあとから出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
大きなビルの真ッ黒い、小ッちやな小ッちやな出入口
空はひろびろ薄雲り、薄雲り、埃りも少々立つてゐる
ひよんな眼付で見上げても、眼を落しても……
なんのおのれが櫻かな、櫻かな櫻かな
あゝ十二時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ
ぞろぞろぞろぞろ、出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
大きなビルの真ッ黒い、小ッちやな小ッちやな出入口
空吹く風にサイレンは、響き響きてきえてゆくかな」
(中原中也「正午」丸ビル風景)