社会保険料徴収の脅威
雇用が失われる‥‥
今から10年以上前になると思いますが、このテーマで、かつて発行していた業界雑誌で特集を組み、またセミナーも何度か行いました。
きっかけは、理美容室へも社会保険徴収の荒波は押し寄せる、この荒波は避けて通れない、という国の社会保険や健康保険政策の大きな動きがあったからです。
かなり衝撃的なテーマで、現在の上場企業を始め意識的な理美容室は、いち早くその対策・対応に着手しました。それで今日のように、合法的な業務委託制のビジネスモデルを立ち上げた会社もあります。
一方では、社会保険料徴収逃れともいうべき非合法な対策をとるところもありましたが、やがて淘汰されていきました。当然のことですが。
もちろん、雇用を守りながら、社会保険の徴収にも対応できるように、生産性をいかに向上させるかということに必死に取り組んだところが多数でした。
「雇用をしない」が破竹の勢い
そして、10年後の今日、業務委託をビジネスモデルとする美容室企業が株式の上場を果たしました。さらにそれに続く同種のビジネスモデルの企業の数社が上場をひかえているというのです。
このように、純然たる雇用をしているサロンの停滞を尻目に、雇用をしない業務委託サロンが破竹の勢いで業績を伸ばしています。
さらにシェアサロンの隆盛。
集客力のある立地にスペースを確保してサロンを展開します。
坪当たり固定の賃借料の徴収、売上に応じたマージン徴収など運営方法はさまざまです。
いずれのやり方とも、社会保険料の徴収からは免れます。
その他、各種手当、教育費など無料で済みます。稼げるまでの先行投資もありません。
しかも業務委託は外注費に振り分けられますから、消費税の納付は少なくて済みます。
今回、上場した企業の決算内容を見たのですが、営業利益率は10%以上の高収益でした。
個人主義の未熟
先例はあるのです。
アメリカが業務委託、ブースレンタル(鏡貸し)、シェアサロンの先行例です。純然たる雇用サロンは2割程度しかないと推測します。
では、このまま業務委託、シェアサロンの隆盛は続くのか?
長年の編集者として培った分析と仮説において、私ははっきりと「NO」と申し上げたいのです。
なぜなら、アメリカのように個人主義が発達していない、未熟な日本であるからです。
私はアメリカの大リーグ野球が好きなのですが、大リーガーは自分を高く買ってくれるチームへの移籍に躊躇はしません。むしろ積極的です。また、移籍した選手を受け入れる違和感のない土壌も醸成されてあるのですね。
これが日本だと、チーム愛や仲間意識、土地やファンなどとの一体感から、必ずしもお金を優先で移籍しません。移籍した先での人間関係もまた一から構築するのがわずらわしい。
個人主義というよりも集団意識、仲間や組織への連帯感や帰属意識が大きいのですね。それがモチベーションの源泉でもあるのです。
だから、個人主義は未熟にならざるを得ない。いや、個人主義など発達しようがない。
(労働行政でさかんに推奨されている「ジョブ型雇用」など早々に破綻すると思いますよ。)
この辺の意識を考慮することなく、業務委託やシェアサロンがこのまま隆盛を続けるとは思えないのです。
いずれにしろ、就業スタイルは異なろうとも、現場で稼働するスタッフの絶対的な不足という、圧倒的“売り手市場”であることは変わりありません。
ということは、委託料の高騰、賃料の低減、個人よりも本部での集客機能持ち、確定申告の代行‥‥などなどといった、稼働するスタッフ側に歩み寄ることによる、稼働スタッフを集める優位性の勝負になってきます。
つまり、今までのような高収益は遅かれ早かれ限界を来してしまうということです。
「教育という仕事は流水の上に文字を書くようなはかない仕事である。しかし、そのはかないことを巌壁(がんぺき)に刻み込むような真剣さをもって取り組まなければならない。」
(森 信三)